第十五話 赤色旅行戦 その2

「質問をしてもいいかな、ジェントル。退屈なのさ。」

「もちろんです。」

 不良のことはもう気にならなくなっていた。

 僕にできることは、ただ話すことだ。

 剣を抜くことではない。

 いや、これだけ注意を向けられて抜ける訳もないが。

「この船に乗る人間に危害を加えるつもりで来ている、イエスかノーか。」

「ノー。」

 その瞬間。

 リボルバーが僅かに回ったのが確認できた。

 やはり、質問できる回数は六回で見ていいだろう。

 一周しのぎ切る。

 これしかない。

「俺っちとしては、そこが一番重要なのさ。何せ、この豪華客船に乗っているお客様は皆、ハイクラス。首が飛んじまうのは避けたくてね。」

 質問が良かった。

 僕らはあくまで村人の情報さえ得られればいいのであるから、危害を加えること自体を目的としている訳ではない。

 もしかしたら。

 相性はいいのかもしれない。

 あくまで、正規のルートで乗ってきたわけではない。

 この部分さえ隠すことができれば、すべては丸く収まる。

「人に危害を加える訳ではないけれど、盗みなどの罪を犯す行為に手を染めるためにこの船へと乗ったかどうか。」

「ノーです。」

 ノーと答えられる。

 ありがたい話だ。

 いや。

 ありがたい。

 話か。

 おかしくないか。

 いや。

 今の質問、絶対におかしい。

 最初の質問では、人に危害を加えるつもりかどうか。二回目の質問では盗みなどの罪を犯す行為に手を染めるために乗ったかどうか。

 この二つの質問は。

 この船に何かしらの罪を犯すつもりで来ている。という一回の質問で一気に知ることができる。

 わざわざ分ける意味がない。

 質問を一つ無駄にしている。

 警備員は次の質問を考えているが。

 正直、そんなことよりも気になる。

 この赤色旅行を使っていない僕でさえ気が付いたのだ。能力者本人である警備員がこの無駄に気づかないわけがない。

 おかしい。

 この警備員何かがおかしい。

「一つ、こちらから質問をしてもよろしいですか。」

「まぁ、いいぜ。ジェントル、なんだい。」

「貴方は、本当にこの船の警備員ですか。」

 警備員が固まった。

 僕は無表情を貫く。

「何故、そう思うのかな。」

 僕は黙った。

 おそらくだが。

 この男。

 警備員じゃない。

 候補として考えられるのは、乗船した客の中の一人が警備員のふりをして僕のことをこのように脅して遊んでいる。ということだ。

 だから、質問もそこまで気を張ったものではなく緩んだものになっている。それであれば、その部分の説明はつくが、銃口を向けていい理由にはならない。それとも、富豪のようなハイクラスの人間であるから初対面の相手にも舐めた態度をとることができる。

 可能性は低いが一応考えられる。

 そして、もう一つの候補は。

「この船、もしかして。」

「何かな。」

 シージャックされている。

 口には出さなかったが。

 それなら合点がいく。

 まず、甲板に他に人がおらず、この状態のまま話が続いていること。

 警備員なら僕らが暴れてもいいように、他の仲間や船全体に危険なので部屋に入っていてくださいとアナウンスするものだ。

 しかし。

 その素振りはない。

 誰も来なくて当たり前、かのようである。

 そして。

 質問が下手な理由。

 それは、おそらく。


 

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