第十一話 1Fフロアボス戦 その2

 事前旅行という能力の本質は、その時空自体を超越するところにある。

 簡単に言えば。

 必ず先手を取ることを可能にする能力ということである。

 これを利用して既に攻撃の準備を進めておくと、相手が攻撃をする前に自動的に攻撃が行われるので、常に準備万端で待ち構えることができるという使い方もある。他にも相手が攻撃を仕掛けてきているタイミングが分かるなど応用性は高い。

 今回のフロアボスは、本。

 おそらく、不良が殺そうと日本刀を抜くモーションに入ったことで、未来ではそのまま扉が開き、斬りつけに行くということになっていたのだろう。事前旅行という能力は確かに機能し、攻撃は行われた。

 即死。

 巨大な本が人を挟んで思い切り閉じる。

 ただそれだけの即死。

「どうするんすか。」

「抜くのはやめましょう。事前旅行が発動します。」

「攻撃してこないっすね。たぶんなんすけど、これは本自体に意思がある感じじゃなくて、本に事前旅行を無理矢理付加して傷つけてくるものを自動的に追わせてる感じっすね。攻撃しない限りは。」

「こちらにも攻撃はないでしょう。おそらく。」

「でも、フロアボスっすね。」

「この本を潰さないと、先には進めませんね。」

 不良は死亡。

 動くのは僕と後輩。

 甲高い音が鳴る。

 フロアについたようだ。

 扉がひらく。

 何百。

 何千。

 何万。

 何億。

 冊。

 そういう。

 数えきれないほどの蔵書がある図書館のようなフロアだった。

 直ぐに感じ取った。

「このフロアの本、すべて事前旅行が付加されてるっすね。」

「この巨大な本だけがワープしてきたことを考えると、他はあくまでフロアに入ってからが発動範囲ということと考えていいかもしれません。」

 僕と後輩はエレベーターから降り、中を確かめる様に歩く。

 内装の雰囲気は同じである。

 ただ、光が幾分か優しく、ステンドグラスの煌びやかな光が通路をてらしている。そこに足を踏み入れると、味気ない黒のスーツの上から青や黄色の光が上書きを行う。

 悪い場所ではない。

 こんな状況でなければ。

「まず、小さい本が多いようですが、これらがすべて事前旅行が発動したら厄介です。本棚を倒して本が動けないようにしましょう。」

「ワープできたらどうするんすか。」

「その時は、不良と同じ道を強制的にたどるほかありません。可能性の高い方向で戦い方を検討しましょう。」

「分かったっす。」

「それが終わったら、居残抜刀で、自分の周辺の空間を斬ってください。」

「それ、大丈夫っすかね。」

「本を斬るつもで日本刀を抜かないでください、あくまで空間を斬るつもりです。」

「仕掛けを作るってことっすね。」

「その通りです。その後に、本を斬るつもりで日本刀を抜くことで、大きな本が事前旅行で自動的に近づくので勝手に居残抜刀で空間に残っている斬撃の餌食になる。これしかありません。」

「ああ。なるほど。それは、その上手く行きそうな感じがするっす。」

「事前旅行はあくまで、相手の攻撃に反応して時間に干渉し、過去に攻撃することができる能力です。かなりチートではありますが、事故のような形で自分からダメージを受けに行く場合は探知できません。硫酸をかけられるのはよけられても、自分から硫酸を浴びに行くのは別問題ですから。」

「でも、それって。」

「はい。」

「俺が大変じゃないっすか。」

 もちろん。

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