第四十七話 慰安旅行

 携帯電話は勝手に切れた。

 人間を殺したのだから、女神と言えど体力を使ったのだと思われる。

「あのよぉ。」

「はい。」

 僕は携帯電話をしまい、元手下がいた場所の近くにいつの間にか転がっている瓶を拾い上げる。

 蓋を開けて直ぐに飲み干す。

 味は不味かった。

 たぶん、薬で間違いないだろう。

 死ぬと分かって、瓶だけは女神の攻撃にまきこまれないようにしてくれたのか。敗北したことを心から認めて、こちらにその対価として渡したつもりなのか。

 それとも偶然か。

 それはもう、分からない。

「あたし、喋ってたか。」

「喋っていなかったですね。」

「一応、魔王とあたしのツートップでやってるんだけどな。」

「そういう日もありますよ。」

 不良は全く納得のいかないというような表情で、手下がいたはずの場所に広がっている血を日本刀に吸わせていた。

 奥に行くほど部屋は乱雑になっていき、仏像たちも壊されていたり、錆びついていたりしている。綺麗なものはほぼない。

 決して仏像に特別思い入れがあるということではないのだが、悲しい気持ちになるのはなぜなのだろうか。本当に不思議である。

 日本人だからなのだろうか。

 いや。

 たぶん、転生する前に仲の良かった友達が寺の息子で、よく遊びに行っていたせいだろう。なんとなく仏像を視界に入れることが多かったし、友達との思い出が壊されているような気がする。

 という解釈をした。

 もはや、どうでもいい。

 フロアの行き止まりには高さ三十メートルほどの仏像があった。

 椅子に座っていた。

「おい、見ろよ。」

 足元に回転扉がある。

 そして。

 案内板がその横にある。

 書いてある内容は。

「カルテを見つけてくる、だとよ。じゃあ次は病院か。」

「おそらく村人が入院していた病院ではないでしょうか。」

「あのめっちゃ強い村人が病院に入院する訳ねぇだろ。何言ってんだよ。」

「村人が強くなる前に冒険中、大きなけがをしてしまったことは聞いたことがあります。おそらくその時のカルテではないでしょうか。」

「つうことは、強くなる前の村人のカルテに何か勝つためのヒントがあるってことか。」

「村人は勇者を殺して強くなったのにそれでも克服できなかった弱点があって、それが書かれているということではないでしょうか。」

「慰安旅行みてぇな能力者が近くにいるなら村人もどうにかできただろうけどな。」

「あの能力者は今も監禁中ですから、まぁ思考から外しても問題ないでしょう。」

「いいねぇ、村人殺しに向けて俄然やる気が出てきたぜ。首ぶった斬って二度と引っ付かねぇようにしてやるぜ。」

「普通、二度と付きませんよ。」

 病院にあるカルテを探すことはそこまで難しいミッションではないはずだ。なにせ、別に奪ったところで殺される心配はないからである。気づかれないように何度も何度も挑戦してもいい。

 少し気になるのは。

 カルテを見つけること。

 少し。

 雑すぎやしないだろうか。

 例えば、せめて村人のカルテを見つけること、であれば納得できる。

 このままでは、どのカルテを見つければいいのか全く分からないし、場合によっては村人以外のカルテを見つけることを要求しているとも考えられる。

「行こうぜ、魔王。カルテ見つけてさっさと終わらせようぜ。」

「えぇ、そうですね。行きましょう。」

 僕は不良の後をついていく。

 例えばだが、そもそもカルテを見つけることが困難な状況である可能性がある。

 だが、そんなことあり得るだろうか。

 病院に飛ばされることになるのだろうし、荒らしまわれば何枚かは見ることができる。

 いや。

 その病院で誰かがカルテを独占している場合。

 それは成り立つ。

 カルテを独占すれば、患者たちの病歴や個人情報を洗うことができるし、確かに人探しや特定の人物の弱点を探る時は素晴らしい効果を発揮するだろう。

 でも、もしもそれが行われているとしたらその病院は。

「豪華客船みたいに、病院もジャックされてたらマジで面倒くせぇよな。」

 私は少しだけ思う。

 それフラグじゃないか、と。

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