第五十二話 温泉旅行戦 その5
本来、スナイパーは何度も撃って来ることはない。
何故なら場所がばれるからである。
移動をして的を絞らせないようにしている。
つまり、だ。
何度も同じところから撃ってきているということは、だ。
なるほど。
自信がおありと。
舐めてんのか、このクソスナイパー。
まぁ。これだけの実力があれば人をバカにするのも納得ではあるが。
「動けばばれますが、動かなければ勝てません。」
「近くによるためには、まず湯気をどうにかしねぇとな。いや、スナイパーの方を逆に叩いちまうって手もあるよな。」
「えぇ。たとえばスナイパーの背後で雪崩を起こす。」
「できるかどうか。」
「他にも手はあります。先ほどのような強い吹雪を待ってそれが起きたら移動する。そうすれば視界も悪いですし、湯気も見えにくいので。」
「即死はねぇけど、腹に弾丸はぶち込まれるぜ。」
「そうでしたね。その他を考えましょう。」
強い吹雪が来るのを待つというのは運任せであるし、先ほどの吹雪よりも強いものが来なくては無傷ということは考えにくい。
さて。
スナイパーを直接殺しにかかるとして、そのためには遠距離攻撃が必要不可欠となる。
不良の蝙蝠抜刀は吸い取った血肉にとって日本刀がより強い殺傷性を取得するというものであり、いわば強化型である。強化の過程で遠距離攻撃ができるようにはなるが、そもそも周りに丁度良く殺せそうな人間がいないのでそれは期待できない。
私の能力は黄金抜刀だが、これは決して使うべき能力ではない。できるかぎり使わないまま戦いを進めることで、もっと必要な場面で発動したいと考えている。この点については不良も私と同じ考えであるとは思う。
我が身可愛さで、黄金抜刀の能力の情報を外に漏らしたくないということではない。今後のこちらの戦力の一部として、黄金抜刀の秘密性は大いに利用可能ということなのだ。
スナイパーとの距離はかなり遠い。
会話をするにも一苦労だ。交渉のテーブルに座らせることも重要項と言える。
「こっちが遠距離攻撃ができるように見せかけるか。」
「こちらの能力の情報が筒抜けだからこそ、正々堂々などという凡そ腐った発想の勝負をしかけてきたのだと思います。得策ではないかと。」
「死んだふりは。」
「湯気が揺れている時点でもう意味がありません。生きていることは分かっているでしょうし。」
考えるしかない。
また岩が撃たれる。
飛び散った破片が雪に突き刺さる音が聞こえる。
「もしかしてなんだけどよ。」
「はい。」
「あのクソスナイパーの野郎、何度も撃ってきてるだろ。」
「そうですね。」
「あたしさ、なんか挑発してんのかと思ったんだけどよ。よくよく考えるとこれだけ撃たれちゃ出たくても岩から出られなくなるだろ。だからむしろずっとここに居続けてほしいんじゃねぇかと思うんだよな。」
「というと。」
「弾だって有限だろろうしよぉ、それでもこんなことするってのはつまり、時間稼ぎなんじゃねぇの。」
「何かを待っている、ということですか。」
「おう。だからな、あたしそれを探るためにあと何回か飛びだしてみようと思うんだけど、どう思う。」
「承知しました。絶対に無理はしないでください。」
「あいよ。」
まだ探ることのできる隙はある。
焦る段階ではない。
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