第五十一話 温泉旅行戦 その4

 吹雪が一気に強くなる。

 この状況であればスナイパーから私たちを発見することはできない、まず問題なく移動は可能である。

「とにかくスナイパーに近づきましょう。」

「そうだな、じり貧で凍死なんて一番笑えねぇな。」

 先に僕が、その後を不良が岩の影から出て次の岩へと移動する。

 この辺りに岩が多かったことは非常に助かった。何度も休憩しながらスナイパーの元に向かうことができる。

 しかし。

 移動途中に銃声が鳴り響いた。

 僕と不良は倒れ込むようにして岩の影へと隠れる。

 不良は撃たれていた。

「大丈夫ですか。」

「マジでクソいてぇよ。まぁ、こめかみとか狙われなかったから血も飛び散ってねぇし、銃弾は腹の中だ。今から蝙蝠抜刀で掻きだすからちょっと待っててくれ。」

「痛くないんですか。」

「いてぇけど、さっき手下の血肉吸わせてるからまぁ回復はできるしよ。銃弾があるまま回復すると体の中に入ったままになっちまうから、そこはな。」

 なるほど。

 不良は日本刀を手に、歯を食いしばりながら自分の腹を引き裂き始めた。

 臓器が見える。雪の白によく映える脂ぎった赤である。

「おっ、あった。これか。」

 取り出した瞬間に、そのまま蝙蝠抜刀の能力を発動、超回復で元通りになった。

「やっぱ、あれだな雪山で腹の中かっさばくと体の内側から冷えてくるな。」

「一生、使わないような会話のフレーズですね。」

 不良が銃弾を取り出すのに要した時間は二十分ほどである。

 たったそれだけであるのに、山の天気は大きく変わり、まだ雪は降っているし風はあるのだが先ほどまで吹雪いていたとは思えないほどのよく見渡せる状態になっていた。

 余り、ありがたいことではない。

 スナイパーのための天気になりつつある。

 ただ、僕と不良が逃げた先というのが岩がかなり密集しているので、どの岩に逃げ込んでいるのかまでは分からないはずだろう。

 不良を撃ったことは分かっているのだから、飛びだしてきた岩から距離的に一番近い岩に隠れていると考えるのがセオリーだろう。だが、私たちのことを知っているということは不良の蝙蝠抜刀の能力も知っているということである。そうなれば事前情報のせいもあり、隠れている岩を絞り切れていないことは明白だ。

 このアドバンテージだけは上手く使っていきたい。

 その時。

 僕と不良の隠れている岩が撃たれた。

 嘘だろ。

 ばれている。

 ばれているのである。

「どうする、移動するか。」

「いや、何故ここに隠れているのかが分からないと、どこに移動しても意味が。」

 あるものが視界に入った。

 視界の中では下部である。

 手のひらサイズの小さな温泉だった。

 そこから。

 目を凝らさなければならないほどの細い湯気が立ち上っていた。

「これだ。」

「は。何がだよ。」

「温泉旅行の能力で作り出された温泉から出る湯気の動きで、人のいる場所が分かっているんですよ。」

「そんな、バカな。」

「ここに私たちがいて生きている以上、湯気は必ず揺れます。」

「だとしたって。」

 今度は岩に二発銃弾が撃ち込まれる。

 これで確定。

 間違いなくばれている。

「でもよぉ、超遠いぞ。ここにいるあたしとお前が目をこらしてギリ見えるかどうかだぞ。それが分かるってどういうことだよ。」

「どうもこうもありません。そういう事なんでしょう。」

 僕は雪玉を簡単に作ると、他の岩場の影にある温泉に向かって投げつける。

 湯気は明らかに揺れただろう。

 しかし。

 銃弾は撃ち込まれない。

 間違いなく。

 湯気の動きでどれだけの大きさのものが動いているか判断している。

 人間ではないと判断したら無視をしている。

 また銃弾が私と不良が隠れている岩に撃ち込まれる。

 フェイクにつられない。

 とんでもないぞ。

 これはまずいぞ。

 舐めていた。

 温泉旅行などという能力のせいで完全に舐めていた。

 湯気の動きで獲物の動きを判断し、雪が降っている中、確実に狙ってくる。

 僕は無表情のまま鼻で笑ってしまった。

 能力がチートなんじゃない。能力者がチートなんだ。

 まるで挑発するかのように銃弾はまたも撃ち込まれる。

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