第三十話 視線抜刀戦 その8
「わしがシージャック犯と取り交わした契約は、要人を人質にしてそこから得られる利益に関しては、すべてシージャック犯側のものとする。」
「てめぇは零か、イカレジジイ。」
「ほっほ。その通り、わしは零じゃ。じゃが、この船に関しては別じゃ。この船は元々、軍艦でな。それを改造して豪華客船にしておるんじゃが、わしは、この軍艦というものに目がなくてのぉ。」
「それで、その軍艦に関してはすべてもらうと。」
「理解が早くて助かるのう。今わしがいるこの部屋も元々は増設された、いわば贅肉じゃ。わしは、この船を元の形に戻してコレクションしたい訳じゃな。」
つまり。
そのためにシージャックを起こして、中の人間を殺すか誘拐し、この船自体を行方不明にさせて自分のものにすると。
まぁ。
なんというか。
シージャックを使っての強奪。
中々正当な手段をとるではないか。
結構、まともではある。
「船、壊れている部分もありますが。」
「致し方あるまいよ。それに、それで壊れる部分は外側じゃ、本質的な軍艦の部分に影響はないじゃろう。」
「おいおい、イカレジジイ。取引ってのはなんなんだよ。」
「お前さんらの目的を聞いてやらなくもない、ということじゃ。わしは中々に金持ちじゃからのう。」
「貴方があの村人を知っていることはこちらで確認済みです。その村人を僕らは殺したいのですが、弱点のようなもの、もしくは情報を教えて頂きたいのです。」
「ウルトラレアアイテムじゃな。」
「はい。」
「ウルトラレアアイテムの監獄移送札が必要じゃ。アッセンの港のダンジョンの最深部にある、取ってくるといい。」
「それはそれは、ありがとうございます。」
しかし。
図書室に書かれていた、村人に関する重要な情報を知る、という条件を満たしたというのに。
あの図書室に帰るための扉が現れない。
なるほどなるほど。
今のは、華麗に嘘と。
オーケー。
そういうつもりでいいわけだ。
「ありがとよ。ご親切にな。」
不良も鼻で笑っている。
まず、この時点でこのイカレジジイが僕らに協力する気が全くないことは、明確である。あわよくば、殺したいとも思っているはずだ。
「話は以上という事じゃな。」
「お待ちください。」
「なんじゃ。」
「僕らはもちろん、満足です。今現在、この船で戦闘は行われていますが、確かにシージャック犯側が優勢ではあります。ですが、だからといってシージャック犯側に立って追われる身になるのも、船員側に立ってその視線抜刀と戦う気もありませんので。」
「ほっほ。そうかね。」
よし。
自然と、このイカレジジイの目論見通りに、シージャックが上手くいっていると、言葉を滑り込ませられた。
今のは上手かった。
ナイス、僕。
「僕らとしては、この部屋から離れた後に、貴方に後ろから視線抜刀で斬られるようなことだけは避けたいのです。」
「ほう。」
「これはあくまで、保険であると考えてください。さきほどのお話で、僕らも村人を倒すのに必要なアイテムとして、相手を一定時間動けなくする監獄移送札か、相手のレベルと自分の攻レベルの差分のダメージを与えるレジェンドキル、こちらのステータス分析をしてきた時に見せないようにするスモークウィンドウは必要だと考えていました。僕らの考えるものと同じだったこともあり、十分に信用はしています。」
「何が望みかね。」
「目隠しをして一から三十まで数える。その間に、僕らはここから逃げて視界に入らないようにします。いかがでしょうか。」
のってこい。
こういうのをお前も待ってたんだろ。
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