第四十四話 時間旅行戦 その6
隙がないわけではない。
元手下なのか、裏切り者なのか。
なんでもいいが。
あの手下。
女神を恐れている。
だからこそ、今のところは女神に睨まれないようにするために村人を裏切り、なおかつ女神に殺されない程度の要求をしていると思っているはずだ。
そこを粉砕する必要がある。
あの手下に。
勘違いでも嘘でもいいから、女神が怒っていると思わせればいい。
そうすれば要求も取り下げるだろうし、先に進むことも可能だろう。
「村人の生け捕りについてどう思われますでしょうか。」
「別にいいわ。どうでも。」
これが問題なのだ。
まず、村人の生け捕りなどできるわけがない。そもそも、こちらがこれから必死になって準備をしてようやく倒せるかどうかなのである。生け捕りというのは、圧倒的な戦力差があることで発生する、強者側の特権である。
村人側がこちらを生け捕りにするならまだしも、こちらからというのは明らかに無理がある。
しかし。
女神からすればこの問題はどちらでもいいのだ。
何故なら。
僕らが生け捕りをしようとして死んだら、次の魔王役を作ればいいだけなのである。
女神が単純な立場で僕らの味方をしてくれているのであれば、こんなこと何の障害にもならない。
僕らのことを助けてください。
この一言ですべてが丸くおさまるからである。
現状のように、困るのが僕らだけである以上、それでことが上手く進むのであれば、と女神は絶対に村人の生け捕りをするように言ってくるに決まっている。
手下も、僕が女神が怒っていると伝えたとして、それを信じるとは思えない。だから、女神本人から手下に怒っていることを伝えてもらうのが一番ではある。
けれど、女神は怒らない。
どうでもいいから。
村人の生け捕りなど、どうでもいいことだから。
「何故、村人の生け捕りのことを尋ねてきたのかしら。」
「その手下というのが、そのようなことを要求してきたのです。ループにはまりたくなければ要求を飲めと。」
「別に構わないわ。村人の生け捕りくらい、要求を飲みなさい。」
そうだろう。
そう言うと思ったさ。
だから正規のルートでの説得だけはあり得ない。
「えぇ、確かにそのような要求であれば飲んだのですが、非常に困りました。」
「何が困ったのかしら。」
「その手下の要求というのが。」
「えぇ。」
「女神様の生け捕りだったのです。」
これでいくしかない。
突っ走るしかない。
お前の身にふりかかることなのだと思わせるしかない。
「その手下というのがそのようなことを。」
「はい。村人側についていた者として、今後、女神様に殺される可能性があると、そのため女神様を生け捕りにして永続アイテム、死刑以上の監獄、に閉じ込めてしまいたいという考えのようです。」
「中々、小賢しいことを。」
「女神様の実力があればこれくらいのことをしようとする者が出てくる可能性は考えられます。」
「分かりましたわ。」
これで、手下の死が決まった。
よし。
完璧だ。
後は女神に働いてもらい、僕らは高みの見物だ。
「その、生意気な手下とやらと、少しばかり話をしてからいたぶって殺すことにいたしますわ。」
おっと。
まずいんじゃないのか、これ。
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