第四十五話 時間旅行戦 その7

 場所はエレベーターが開き、仏像が置かれている部屋。

 ここに入るのは何度目なのか。

 正直、忘れた。

 僕は手下と対峙していた。

「僕の目的を説明させてもらうねっ、ははっ。」

「村人の生け捕りでしょう。」

 手下は深く頷くと、口が引きちぎれてしまうのではないか、と思うほど口角をつりあげてみせる。

「そのことで、女神から貴方に話したいことがあるそうです。」

「それは、ちょっとびっくりだなっ。ははっ。」

「よろしいですね。」

「もちろんだよ。ははっ。」

 もちろんだよ、と言っておきながら少しばかり警戒していることが伝わってくる。

 女神と直接話すような機会が訪れるとは想定していなかったのだろう。

 僕でさえ、女神が電話を通してだが、話をしたいと言うとは到底考えられることではなかった。

 今のところ、女神に対して僕がついた嘘は。

 この手下が女神を生け捕りにしようとしているということ。

 本当は村人の生け捕りである。

 つまり。

 村人と女神の会話の中でこの部分に触れさせないように誘導しなければならない。

 では、どうするべきか。

 村人の生け捕り、という話題は出さないでください。そう、手下側に言うのか。

 いや、余りにも不自然すぎる。

「女神と話す際に少しばかり、守って欲しいことがあります。」

「ははっ、何を守ればいいのかな。」

「村人という名前は出さないで下さい。」

 こう言うほかない。

「どうしてかな、ははっ。」

「村人が忌み嫌われた存在であることは分かりますね。」

「ははっ。当然だよ。」

「女神は非常に高潔な方であり、本来、話ができるような存在ではありません。僕でさえほぼないほどです。村人という汚れた名前を口にも出さないような方です。」

「もし言ったら。」

「殺されます。」

「まさか。」

「とはならないと思いますが、やはりいい印象を与えることにはならないと思います。間違いなく、今後目を付けられることは避けられないでしょうし、僕もこの会話が上手くいかなかったせいで、とばっちりを受ける、などとということはできれば避けたいのです。」

「でもさ、ははっ。」

「とにかく、なるべく上手く行ってください。」

 手下は笑顔ではあったが、冷や汗をかいているようだった。

「ははっ、気を付けるよ。ははっ、ははっ。」

 村人の生け捕りの話題ではなく、村人という単語自体を禁じてしまう。そうすれば結果として一番言って欲しくない村人の生け捕りについては、こちらの意図を勘付かれることなく会話から削除することができる。

 これで。

 誘導は成功した。

 まだ安心はできないが。

「では、通信を始めます。女神に状況を説明してから、そちらにも声を聞こえる状態にしますので少し待ってください。」

 僕は携帯電話を取り出すと女神へ電話をかけた。

 次だ。

「もしもし。」

「その、手下はそこにいるのかしら。」

「はい、ただし。」

 僕は、そこで手下に聞こえないくらいの小さな声にする。

「手下が女神様のことを生け捕りにしようとしているという話題は出さないで頂けますでしょうか。」

「何故かしら。」

「まだ、あの手下は僕が女神様に目的を秘密にしてくれていると思っております。ばれていると知ったら、自殺を繰り返してループにまた突入するかもしれません。」

「まぁ、面倒なことは避けたいわ。」

「はい、是非、お願いいたします。」

 女神との会話の時間はさほど長くはない。

 手下が、僕と女神が何を話しているのか内容を気にし始める、もしくは、何か企んでいるのではないか、と疑い始める時間よりは短く終えられた。

 悪くない。

 悪くはないぞ。

「では、ここから会話を始めます。」

 スピーカーを押す。

 完全に不良のことを忘れていたが、この戦いにおいて不良はほぼ足手まといなので、余り描写はしない。

「初めまして。一応、女神をしていますわ。」

「ははっ、は、初めまして。」

 ぎこちない会話。

 そんな下らない感想を思い浮かべる暇があったら、もっと頭を使うべきだったと後悔した。

「どうせ、殺すんですもの。何を聞いてもいいでしょう。」

 僕は。

 完全に。

 女神という存在の性格を忘れていた。

「何故、女神である私を生け捕りにできると思ったのかしら。」

 最悪だ。

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