第六話 白煙抜刀

 動くな。

 動くなよ。

 お前らが会いたいのは俺だろう。

 いいんだ。

 動きさえしなければ別に何もしない。

 この濃くなった白煙の中で俺がどの方向にいるかは分かっても、正確な位置までは分からないはずだ。それでいい。

 知りたいんだろう。

 お前らが知りたい情報は、俺がいたパーティのことのはずだ。

 話は聞いてる。黒い服に剣を腰にさして不思議な技を使う者がいると。

 大体、この世界の人間が着ている服と違う種類のものであれば、転生者だと想像はつくさ。

 それに、お前らの誰かは魔王なんだろう。まぁ、ここまでで何人もこの世界の低ランクジョブを殺してきたわけだ。それは分かる。

 あいつらも悪気がわる訳じゃない。分かるだろう。結局低ランクのジョブでは、一回の戦闘で得られる経験値も少ない。勇者や騎士、魔法使いのようなジョブとは雲泥の差がある。

 嫌気がさしてるのさ。

 あいつらもな。

 魔王とは言えど、同じ人間なのだから命をかければ殺せるかもしれない。

 もし殺せれば。

 一気に勇者に成り上がり。

 今までの劣等感を消し去った上にお釣りがくる。

 だから。

 敵としてかかってこない村人や商人もいるだろう。

 何が言いたいか、と言えば、なんだが。

 その。

 余り暴れないようにしてくれないか。

 もう引退した身として、こんなことを言うのは実力の後ろ盾がなく恥ずかしいことなんだが、できれば殺しにかかって来る奴らも気絶くらいにして欲しい。命までは取らないで欲しいんだ。

 あぁ。

 うん。

 無理か。

 早いな。

 まぁ、それはしょうがない。

 ただ、一応、俺の願いは言ったからな。

 その上で、だ。

 お前らが殺そうとしているその村人はな。いや、元村人か。

 絶対に殺せ。

 確実に殺してくれ。

 あの村人はな。

 勇者を殺したんだ。

 知っているんだろう。

 勇者のパーティに後から入ってきたあの村人は基本的にはただの荷物持ちだった。弱かったが、根性だけはあったからな、大量の荷物をなんとか運んでくれていたよ。

 その時に気づくべきだったんだろうな。

 ある日、俺たちのパーティは途中のダンジョンの最深部でとあるアイテムを見つけてしまったんだよ。

 平等条約。

 不思議だろう。

 普通、人が持っているはずの能力が固形化してアイテム化していたんだ。

 内容はシンプルだ。

 平等な勝負が可能となる。

 はは。

 今、考えても中々変わったアイテムだ。

 例えば、片方がアイテムを持っていない場合は、戦うもう片方はアイテムが使えない。相手が魔法を使えなければ、こちらも魔法を使うことはできない。

 その日の夜、村人が突然、勇者に文句を言いだした。俺も含めて、皆、村人のことを馬鹿にしていたから、とうとう我慢の限界が来たのだと思っていた。

 特に。

 勇者は。

 村人のことを馬鹿にしていたからな。

 だから、このアイテムを使った上で村人に、戦ってやってもいい、と勇者は言ったんだよ。

 お前らにも見せたかったよ。

 二秒もしなかった。

 勇者の首を、村人が捩じ切ったのさ。

 圧勝だ。 

 圧勝だったんだよ。

 知ってはいたんだ。村人のようなジョブでもたまに、体力や攻撃力、防御力に異常な数値を持っているものがいることくらいは。

 あの大量の荷物を一人で運んでいる時点で気づくべきだった。

 その上で、平等条約の効果によって、勇者は主人公補正を使えなくなり、村人に戦いを挑まれるという本来なら発生しないイベントを自分から起こし、まともに戦闘にしてしまった。

 勇者対村人ではない。

 人対人の普通の戦闘を始めてしまった。

 もっと危険だったのは、レベル差だ。

 その時の勇者のレベルが713。

 村人のレベルは、10。

 経験値はレベル差によって算出されるものだからな。

 もらえる経験値の量が異常すぎたんだ。

 一瞬で。

 俺も、他のパーティのメンバーも追い越された。

 そして。

 俺以外を除いて全員殺された。

 少し考えてもみれば、勇者はモンスターが出た時は、俺たちを先に行かせて村人と残っていた。当時は、回復アイテムを持っている村人は何かあった時には必要になるから残していると思っていた。今思えば、あれはたぶん、村人にぎりぎりまで殺させて、とどめは自分がさして経験値を独り占めしていたんだろう。

 パーティの本当のエースは、勇者じゃない。村人だったんだ。

 村人はそのレアアイテム、平等条約、を持ってどこかへと行ったよ。

 あぁ、特徴か。

 そうだな。

 男なんだが、背が低くて。

 女の子みたいでな。

 パーティにいた、踊り子にはよく言われていたよ。

 ペンギンみたいで可愛いって。

 

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