第五話 閻魔百景

「我は、貴様ら魔王軍を殺すために馳せ参じたものなり。能力は閻魔百景。地獄の王を呼び出し、貴様らに因果を超越した罰を与え、永劫の苦しみを与える。」

 汽車を降りた瞬間に僕らに話しかけてきた男の言葉である。

 男は。

 四秒後には足が切り落とされ。

 七秒後には耳がなくなり。

 一分もする頃には臓器が漏れ出て。

 途中で泣いていた。

 勝負はついた。というか、戦う前から勝負はついていたと言ってもいい。なんとなく戦った上で負けた、というやりきった感を男に与えることができたので、少しばかり安心した。

 僕らは足早に駅を後にした。

「ルシアナチャルトは、田舎ですね。」

「駅の周りで発展するのが普通なんすけどね。ヤクトワニとか。」

「ちげえって、ヤクドヴァニな。ヤクドヴァニ。」

「ヤグトヴァニです。」

 ルシアナチャルトは千年以上前の城を構えるステレオタイプな魔王がいたころ、そこに行くまでの道の最期の町だった。そのため、多少物価を高く設定しても、そこまでくる勇者のパーティはお金をたくさん持っていたので、問題なかったのである。

 ただ、魔王が倒されると、このように一気に田舎の町へになってしまった。

 考えてもみれば、魔王特需のようなものを受けていただけに過ぎず、元々町の経済的な戦略などたてることもしていなかったのだろう。寂れるべくして寂れ、後には駅と数人の人間が残る。

 こんなものだ。

 どこの町も。

 この町にいるという元勇者のパーティというのも、おそらくその静かな点を気に入って越してきたのだろう。

 確かそのパーティができて、なくなるまでが三十年前から二十年前の出来事である。

 こういう所に女神の配慮というか、僕の運の良さというものを感じる。

 一日であるとか、一年前であるとか、時間の単位が転生前の世界と同じなのである。これは女神が僕に気づかれないように、会話がなされたり、それを認知した瞬間に僕の知っている単位に変換するなどの努力があるのか。

 いや。

 そんなことをするタイプに思えない。

「今、何か考え事してたっすね。」

「おう、こいつしてたよな。おい魔王、これから会うんだからシャキッとしろよてめぇ。」

「ピアス変えましたか。」

「へ。」

「ピアス。」

「え。あぁ、分かる、んだ。」

「似合ってますよ。」

「あ、ありがとう。」

「つける人間が良ければ、ピアスもよく見えますからね。」

 間違いなく、元勇者のパーティにいた騎士は、こちらの存在には気が付いているだろう。例え、引退した身であったとしても勘というのはそうそう鈍るものではない。だからこそ、引退を撤回して復帰する者が多いのも、この騎士というジョブにみられる特徴なのである。

「引退した騎士の能力とか、知ってるんすか。」

「白煙抜刀。」

「いい能力だぜ、あれ。」

「煙っすか。」

「煙に触れた人間を斬り殺す。」

 故に。

 白煙抜刀。

「近距離、中距離、遠距離どれもいけるんじゃないっすか。」

「ま。全滅になるのだけは避けようぜ。」

「昔は毒霧で白煙抜刀を使っていたそうなので、煙を極限まで薄めてばれないようにして、僅かな切り傷しか与えられないけれど、毒でそのまま致命傷と。」

「いやらしいっすね。」

「な。騎士とか言ってるくせによぉ、せっこい使い方だぜ。」

 その時。

 ほんの僅かだったが。

 僕らの周りを白煙が取り囲み始めているのが分かった。

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