第二十五話 視線抜刀戦 その3
とりあえず。
ジジイ。
ではなく。
このイカレジジイはぶっ殺すとして。
知りたいことは今のところたった一つである。
今回の戦いにおいて、重要な点は、間合い。
僕と不良はほぼ同じ日本刀であるので、攻撃範囲は同じで、日本刀であれば平均的ともいえる。
しかし。
相手の視線抜刀は見える限り全て切れるので、無限となる。
この圧倒的な不利をいかに解消するか、ここが勝負の分かれ目となる。
一応、解決策はある。
それは。
急接近。
これに尽きる。
つまるところ、日本刀と視線抜刀のどちらも相手に攻撃が届く距離で戦えば、モーションでの勝負に持ち込むことができる。もちろん、相手を見つけてピントを合わせる、という行為と、日本刀を振り下ろす、という行為であればピントを合わせる方が格段に早い。
だが。
日本刀を二つの眼球めがけて振ればどうか。
簡単な話である。
視界をふさぎながら斬りつけることが可能である。
はい、勝ち。
と、まぁ。
およそ理論上は、というところでしかない訳だが。
どちらにせよ、扉を開けた際のイカレジジイとの距離がどれほどであるかは理解しておかなければならない。
「扉を開けましょう。」
「どうやって。」
いや、本当にその通り。
イカレジジイもできる限り自分にとって有利な状況で進めようとしている。だからこそ、扉に穴を空けるという形で視線だけはいくらでも通せるが、日本刀はこちらに届かない状況を作り出したのだ。
チート能力なのだから、そこはもう少し横柄に戦って、隙の一つも欲しいところである。
執事、いや、クソジジイからもマスターキーはもらわなかった。
どうせ、持ってきても使えないようにしっかりと内側から何かしらの工夫はしているのだろう。既に、扉に穴を空けてしまっているのだから、籠城は覚悟しているはずだ。
開けさせるしかない。
「もしもし、お話できますでしょうか。」
「なんじゃ。」
よし。
会話には応じてくれる。
能力がチートだろうがバグっていようが、使う人間の性格までバグってなきゃこっちのもんだ。
「先ほどの女ですが、警備員の人間だったようです。問題ありません、処理させていただきました。」
不良が深く頷き、息をひそめる。
「わしの視線抜刀では腕を斬っただけじゃからのう。」
やはり。
なんとなく見えたというくらいで斬撃を与えられる能力ではないらしい。
ピントを合わせるレベルに到達してから斬撃を与えられる。
そして。
ということは、イカレジジイもどんな攻撃を与えたのかは分かっているということか。
そうなると。
次は。
「女の死体を見せてくれんかのう。」
よし。
悪くない。
悪くないぞ。
今のところ。
僕はイカレジジイ側、つまりはシージャック犯側の人間であると勘違いしてくれている。
そして、もう一つ分かったことは。
このイカレジジイ、シージャック犯の内通者でありながら、シージャック犯側のメンバーについては全く理解していない。
つけ込める。
ここは、つけ込める。
僕は不良の切断された右腕を持ち上げる。
死後硬直が始まっており、持ち上げても日本刀を握ったままである。リアルな死体ではあるのだが、このようなよりリアルさのでる形を維持できているのは説得力を増す要因となりうる。
本物の死体を見せても、疑われる場合だってある訳だ。
僕はその腕を扉に開いた穴のあたりで動かして見せる。
もちろん、こちらの体の一部分も見せないようにする。
「ほう。斬ってから経過した時間と、垂れている血の量を見れば分かるのう。」
「何がでしょう。」
「この女は死んだな。」
よし。
不良を死んだことにするというアドバンテージはもらった。
上手くいっている。
が。
上手くいきすぎるとろくなことがない、とも思う。
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