第二十六話 視線抜刀戦 その4
「あたし、死んでんのか。」
「死んでますね。」
「じゃあ、死んでる人間らしくイカレジジイの後ろに回ってくるぜ。」
「出入口はここ一つですから、後は窓を突き破って侵入する経路だけですね。ですが。」
「分かってるぜ。この部屋の窓のある方には甲板はねぇ。もう、海だけってことだろ。」
「ロープを準備して、体を安定させてから侵入するようにしてください。船なので体が煽られて危険ですから、注意をお願いします。」
「確かに、水着もねぇのに水泳はしたくねぇな。」
僕が正面から。
不良が他の場所から。
悪くはない。
が。
それでも確実に殺せる保証がない。
勝率は十割、そうあるべきだ。
僕は非常に賢いので、僕の予想の範疇をこえたトラブルが起こりうる可能性も十分に考慮している。
そのための、十割。
そのために、丁寧に積み上げる十割。
「全く、籠城とは恐れ入りました。」
「こちらにとって有利な環境とするのは、当然のことじゃよ。扉を開けても閉めても、相手には死んでもらうようにせんとな。」
自慢が過ぎるぜ。
イカレジジイ。
間違いない。
扉を開けた際に、敵が突っ込んできてもいいよう。
イカレジジイは窓から入って来る光を背にしている。
つまり。
侵入者にとっての逆光。
こんな初歩的な作戦をやっていない訳がない。
このあたりは敵が突入してくる場合に、待ち構える方がするべき当然の策と言える。このあたりの常識的な部分について、しっかりと考えを持ち合わせているほど、イカレジジイはイカレておらずちゃんと賢い、と仮定する。
不良の突入は、おそらく、ちゃんと意味のある形で機能する。
それこそ、とどめをさすのは不良になる可能性が高い。
もちろん、開けても閉めてもの部分について思いを巡らせれば。開けた場合のブービートラップも考えられる。だが、自分の仲間であると思っている僕に対して何の注意もない。仮にあるとしても、入室する段階で解除、するはずだ。
「外で何をしておるんじゃ。」
「申し訳ありません。只今、装備の解除をしておりました。安楽椅子の老人ともあろうお方の前に、このようなはしたない恰好は見せられませんもので。」
わずかばかり、笑いを足す。
穏やかな雰囲気を演出する。
「そうか、そうか。気にせんでいいんだがなぁ。」
そう言いながら。
嬉しそうじゃねぇか。
イカレジジイ。
えぇ。
敬われるのが当たり前だと思ってる、お前のそういう死ぬほどダサい隙の見せ方、本当に大好きだぜ。
一生やってろ、バーカ。
「シージャックは成功したんじゃろうな。」
「まぁ、こちらも何人か殺されましたが。要人はすべて人質としました。」
「うむ。ご苦労ご苦労。」
不良が鼻で笑う。
油断はさせることができた。
このイカレジジイは、外の様子についたは全く分かっていないようである。
ずっと籠城をしていたようだ。
ただ、外の様子が全く分からないという訳ではないようだから、僕と不良が歩いてきた時に、わざと扉を斬り、直方体を落として見せた訳だ。
わざとそれを拾い上げさせて中を覗かせるなり、視界に入れるなりで殺そうとしたわけだ。
つまり、今、外には自分にとって敵がいると分かった訳だ。
足音で。
足音で分かったのか。
さすが、だ。
さすが、だろう。
さすが、か。
本当に。
それって。
さすが、ということなのか。
足音で分かるのか。
それ。
敵か味方かなんて。
逆に、仮に分かる人間がいたとしよう。
そうだとするならば。
そういう判断ができるということは、間違いなく仲間とある程度長い時間を過ごしている、という事が言える。
つまり。
足音で敵か味方かを判断できる人間が。
僕の肉声まで聞いたのに、自分の味方だと勘違いするわけがない。
はは。
なるほど、ね。
いやいや。
騙されたふりをして、騙しに来るかね。
本当に。
やるじゃねぇか、イカレジジイ。
いや。
安楽椅子の老人。
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