第八話 一段旅行

 八つ子の使う八段旅行には特徴がある。

 それは、まず八つ子たちは、それぞれ一段旅行という能力を持っていること。

 そして。

 この異世界でもかなり珍しい。

 八人が集まることで一つの能力として形になるものである、ということである。

 八段旅行はかなり特殊かつ、異質、そして、反則的。

 その理由は単純。

 この世のすべての願いをかなえられる能力だからである。

 例えば、死んでしまったお母さんに会いたい、となった場合、誰かが八つ子に頼み、八段旅行を発動してもらう。すると、死亡した母親に会うためにこなさなければならない関門を、八つに分けて示してくれるのである。正確には、示すというより立ちはだかる、という方が正しいのだが、それは実際に能力が発動すれば分かることである。

 つまり。

 八つの関門さえ合格できれば、どんな願いでさえかなえてくれる。

 ただし、圧倒的に不可能なものである場合は、本人の死が八つ目の関門であったりする場合があるので注意が必要となる。

 僕らがこの八段旅行に叶えて欲しいと考えている願いはもちろん。

 その村人の殺害、及び、惨殺である。

 それ以外にはない。

 おそらく、だが。

 八つ目の関門は、その村人との戦いとなり、他七つはその村人と戦うまでのステップとなるとだろうと考えられる。

「八段旅行ってあんまり凄い能力だって思いにくいんすよね。」

「言っている意味は分かります。」

「分かるならもっと、単純にして教えて欲しいっす。」

「そうですね。八段旅行の本質は、その目標に行きつくためには何をすればいいのかすら分からない時に、それを八つのプロセスに分けてくれるところにあります。つまり、自分でどのような努力をすればいいかを考える必要がない、ということです。」

「分かるんすけど。」

「しかも、その八つのプロセスはその目標をかなえるための最短を示します。」

「へえ。」

「そして、必要最低限のリスクで八つのプロセスに分けます。」

「凄いじゃないっすか。」

「だから、禁止能力なのですよ。表ざたになったらおそらく直ぐに攫われるか、殺されます。あの八つ子たちは。」

「大変っすね。」

「実際に、誘拐された過去もありますしね。」

「そうなんすね。」

「この異世界は、元々、獣人の世界だったのですよ。」

「見たことないんすけど。」

「少数ながら人間がいて、その中に八段旅行を使える人間がいた。そして、獣人を絶滅させるという願いの元、八段旅行を成功させたわけです。」

「なんか、その。」

「覚悟と実力さえあれば、歴史を変えるどころか、歴史自体を変えられますし、もっと言うなら歴史自体なかったことにもできる。」

 そういう能力なのである。

 欲望と名の付くものならすべてを受け止める能力、それが八段旅行。

 人間は願いを叶える際に、最も残酷になれる。

 それを教えてくれる素晴らしい能力。

 と。

 思うことにしている。

 このように、能力の中には、明らかに禁止されているものも存在している。

 実際。

 僕の黄金抜刀。

 これも禁止された能力ということになる。

 ただし、禁止されているからといってその能力を捨てることができる訳もなく、僕らには間違いのない死が待ち構えることになる。魔王として転生してしまった訳だからその時点で捕まったら死亡ということもあり、死の二倍かけである。これは最早どうしようもない。

 僕は少しばかり、自分の日本刀に触れてみる。

「なんで、触ってんだよ、それより肉食えよ。肉。元気出ねぇぞ。」

 僕は微笑んで頷く。

 もう、黄金抜刀という能力は何度も人の体を引き裂いている。

 そして、その度にその能力の本質を目の当たりにしている。

 世界一、いや、異世界一、下品な能力であるという自覚がある。

「魔王ってさ、結構上品に食うよな。育ち良さそうっていうか。」

 青痣ができるほど頬を叩かれながら過ごした時間があれば、こういうことになる。

 さすがにそうは言わなかったが。

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