第五十四話 温泉旅行戦 その7
「スナイパーとして言わせてもらうが、もう君たちは限界のはずだ。確かに、そこまで寒くはないこの場所では眠るという行為でもしているのであれば、回復を狙うことはできるだろう。眠って危険な状態に陥るのは分かりやすく遭難している時か、気温がとても低い場合などだからな、判断さえ間違えなければ眠るのもそんなに悪い行為ではない。それはいい。だが、だとしてもこのままの状態が続けば負けることは明白だ。どうだろう。休戦というのは。」
明らかに有利な立場からの休戦の申し入れは当然ながら裏があると思った方が良い。
予想では、仲間に引き入れようとしていると考えられるが。
「仲間にならないか。」
ほら、来た。
「休戦というのも所詮は少しの時間だ。つまり、こちらの仲間にならないかという勧誘を承諾するかどうかの考える時間と思ってほしい。元々は殺す予定だったが、ここまで耐えてくるとは思わなかった。天晴れだ。」
何が天晴れだ。
殺す気満々にしておいてから、やっぱり殺さないし仲間になれ、と言えば交渉のハードルが下がるだろうと計算して、そう会話を進めてきたくせに。
さて、ここからだ。
交渉を仕掛けてきたということは、まだ私たちにも分があるということである。会話さえできればどうにかできるはずなのだ。
例えば、スナイパーを寝返らせてもいいし、見逃すべきとの考えに誘導してもいい。上手くいく、ということではなくそのような形で選択肢が広がるという意味である。
だが、この状態では距離があるので会話ができないのは自明である。
ただまぁ、スナイパーが交渉をしてきているのだからこちら側の情報の発信の手筈は整えていると考えられる。
「私はスコープから君たちを見つめているわけだが、今君たちが隠れている岩の、いいか、私から見て右から出てきた場合は仲間として受け入れる。しかし、それ以外の行動をした場合はこのまま容赦なく殺すという目的に移行する。いいな。もう一度繰り返す。」
最悪だ。
なめらかな会話を期待できないということは交渉の余地はない。
むしろ、脅迫ではないか。
「どうすんだよ、やべぇぞこれ。喋れればどうにかなるのによぉ。」
「それに、スナイパーということは私たちが岩場から出てきて降伏したとして、近づくのに時間がかかるということになります。そうなると私たち二人に逃げられる可能性があるので、おそらく両足の膝あたりに銃弾を撃ち込んできて遠くに逃げられないようにするくらいのことをしてから近づいてくるでしょう。」
「いや、いてぇじゃねぇかよ。」
「そうですね。いてぇですね。」
「それに、それが元で死んだりしたらどうすんだよ。」
「仲間に引き入れたいけど、結局殺してしまったら戦力を削れたという事実は残るのでどちらにしても悪くないといった所であると思います。」
「どうにかして会話に持ち込まねぇとやべぇぞ。」
その通りだ。
道はあるのに、余りにも細い。
というか、道として成立するくらいに幅があるとも思えない。
「私たち村人側は、君たちのもつ能力である黄金抜刀に期待をしている。それこそが女神にしろ、勇者にしろ、特別役職の者たちを効率よく倒す方法として最も効率的であると言えるからだ。必ず仲間に引き入れろと言われているしな。」
なるほど。
私に黄金抜刀を何度も何度も使わせて戦力強化、と。
この能力の副作用もまともに知らないくせに。
いや。
知った上で、お前のことなど気に掛ける気はない、ということなのか。
そうか、そう。
だが、良かった。
本当に良かった。
そういう会話の端々を聞きたかったのだ。
勝ったと思っただろう。
クソスナイパー。
お前のそういう所がお粗末なんだよ、このクソボケ。
私は不良の方へ顔を向ける。
「私たちの生け捕り一択だそうですよ。」
「さっきと言ってること違うじゃねぇか、あのクソスナイパー。」
「全くです。つまり。」
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