第五十五話 温泉旅行戦 その8

「つまり、なんだよ。」

 私は不良の耳元に顔を近づける。

「ここから先は小さな声でお願いします。」

「おう。」

「必ず生け捕りということは、傷をつけても、逃げられてはいけないし、殺してもいけないということです。まぁ、最悪、本当に暴れたら殺してもいいという許可はもらっているでしょうけど。」

「だから、どういう意味だよ。」

「つまり、仲間がいるはずだということです。」

 不良が首を傾げる。

「なんでだよ。」

「先ほども言った通りスナイパーが遠くから話している訳ですから、当然私たちが仲間になることを承諾しても私たちの元に来るまでに物理的な距離が生まれます。」

「そうだな。」

「その間に逃げられる可能性が一つと、仮に動けないように銃弾を私たち二人に撃ち込んでから近づこうとした場合、その間にもしも吹雪いてきてしまったら場所が分からなくなる可能性もありますし、私たち二人の体温が低くなって死んでしまう可能性も出てきます。他にも、私たちの体力がまだあるだろうというのはあくまで予想であるから出血状態での放置がどこまで命に問題があるかも分からない。また、蝙蝠抜刀の能力がまだ残っていて体力回復できる幅がどれほどであるのかが分からないので、どれくらいのダメージで、程よく動けず、程よく死なないのかの線引きが分からない等の問題も発生します。」

「つまり、そういうめんどくせぇ問題を一気に解決するのが、仲間をこの近くに置いておくってことなわけか。なるほどな。動けないくらいのダメージを負わせられてるかとか、移動したかどうかとか、回復したかどうかとか、報告するやつがいないと迂闊に近づくって判断はできねぇな。」

「ですが、ここで不思議なことがあります。その仲間の方がいるなら、その方にも攻撃させてスナイパーとその仲間の挟み撃ちで交渉すればもっと早く状況をコントロールできていたはずだ、ということです。」

「つまり、そうしなかったんだから、その仲間は相手にダメージを与えるような直接戦闘に参加できるタイプの能力者じゃないってことか。」

「戦闘能力が著しく低いと考えていいと思います。」

「相手の状況を探知できる、探知系の能力者の可能性もあるんじゃねぇのか。」

「基本的に、探知系能力者は近接攻撃系能力者と組む可能性が高いです。というのは、近接攻撃系能力者というのは相手に接近しないと勝負にならない訳です。ということは、どこに敵がいて、どんな罠をしかけていて、どの方向に移動しているかというのが事前に分かっていないと、返り討ちにあうか、戦闘にもならないまま時間が過ぎてしまいます。ですが、スナイパーはそもそも遠距離攻撃であるので、基本的に相手のことや、相手の環境などが見える位置を確保してから始まります。というか、地理が頭に入っていて、ある程度ポイントとなる場所が分かっていないとスナイパーなどやってはいけません。」

「だろうな。」

「もちろん、探知系能力者ほどではないですが、そもそもスナイパーという攻撃手段が情報を握って行うものなので被っている部分が大きいんですよ。一緒に行動させる利点が少ないのです。そうなると、探知系能力者の線は薄いかと思われます。どんな種類の能力であれ仲間の方は近接系の可能性が一番高いのではないでしょうか。」

「なるほどな。」

 怪しまれないようにあたりを見回すが、その仲間の影はない。

 おびき出すしかないということか。

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突然異世界に転生した俺は、最初からTUEEEEE系主人公で、しかもペンギンのように完璧な可愛さを持ち、勇者のパーティでエース級の活躍をしていたけれどレアアイテム目当てに仲間を皆殺しにして、今は… エリー.ファー @eri-far-

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