第二十一話 光線抜刀
シージャック犯であった男。
警備員になりすましていた男。
なんだっていいが。
もちろん、殺した。
死体やら肉やら骨やらは、すべて不良の蝙蝠抜刀が吸い取った。なんとも使い勝手のいい能力である。
鞘に収まっている時の長さや幅と比べると、明らかに大きく立派なのだが鞘に近づけると、するりと小さくなる。とにかく、人間を食わせておけば圧倒的に強く、日本刀らしからぬ機能も増えてくる、そんな最強の能力なのだ。食べさせる人間の数に限界はないので、蝙蝠抜刀の能力値にも限界はない。
ただ、直ぐに空腹になってしまうらしい。
まるで生き物のようだ、と思う。
「こいつはもう生き物以上だぜ。そう思うだろ、魔王。」
まぁ。
その。
「確かにその通りですね。」
そう言っておくと角が立たなくて済む。
「お前、今、面倒くせぇからそう言ってんだろ。」
分かってるなら黙ったら。
「そんなわけないじゃないですか。」
さて。
甲板は綺麗になり、ここで人が死んだことなど誰も気づかない状態にはなった。次は、視線抜刀を使う富豪を探さねばならない。
あの村人の元手下で。
異名は。
安楽椅子の老人。
「右回りと左回りで探索してみますか。」
「やべぇ能力者がいたら、死ぬかもしれねぇし。二人の方がいいんじゃねぇのか。」
不良が本を拾い上げてまた背中側に持ってきて、ズボンと体との間に挟み込む。ああいう保管の仕方はどうなのだろう。価値が下がる可能性があるのではないか。
「あっ。」
声が聞こえる。
僕と不良はその声が聞こえた方へと顔を向ける。
ガラス一枚隔てたラウンジのような場所の中からこちらを指さす誰か。
背の低い少年。
腰には二メートルほどの日本刀。
間違いなく。
シージャック犯。
少年が、鞘を後ろへと投げ捨てて日本刀をこちらに向かって突き出す。まず、絶対に届く距離ではない。物理的には。能力以外では。
「どっかぁぁぁぁっん。」
少年の叫び声と共に、僕と不良は体を下げた。
その瞬間、少年の日本刀の先が膨らみ、黄色や緑をまとった青白い光が飛び出した。
直接当たってはいないのだが、猛烈な熱さに襲われる。
青白い光が消えて、不良が少年の方ににらみを利かせているので、僕は周辺の状況を確認する。
どうやら、青白い光線は手すりに当たったようだ。この船のエンジンであるとかそのような部分に影響はないようだ。ひとまず安心だ。良かった。確かに良かった。
良かったのだが。
その手すりが。
丸々消えていた。
熱で溶かされたのであれば分かる。その部分が光線の当たった形で削り取られている、というような。
そうではない。
もう、ないのだ。
この船を一番外側で囲っていた手すりの全てがもうない。
別に光線を出しっぱなしにして一周動かしたわけでもない。一方向に光線を出しただけである。
「ただの、破壊するみてぇな簡単な能力じゃねぇな。これ。」
「特殊な旅行系能力のようではありますが、使っているのが日本刀である以上。抜刀系で見るのが妥当でしょう。長所は特定のものを消滅させることと、射程距離がおそらく恐ろしいほどに長いこと。短所は攻撃するまでに一瞬隙がある、連発ができない、光線は出しっぱなしにすることはできない。というところでしょう。」
「避けながら近づいて殺すか。」
「僕が囮になりましょう。後ろから回って殺してください。」
裏ポケットから取り出した、注射器を右目に差し込む。
これで。
結構見える様になるのだ。
「もしかして魔王って、それ病気とかじゃなくてそういう使い方のために持ってんのか。」
「いやいや、これないと死にますけどね。」
死んだ後輩に盛られた毒もあって、今や体は持病と毒が同居している。
いや、毒はその通りだが、持病という表現は適切ではないかもしれないが。
少年の日本刀は見るからに貧相にしぼんでおり、どこか錆びついているようにも見える。一撃必殺を軸とした能力であることは間違いないらしい。
今なら行ける、が。
あの少年の日本刀の腕前がまだ分からない。
分析終了と同時に。
僕も不良も、一瞬で表情を固くした。
少年の眉間から血が噴き出したのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます