第二十二話 卒業旅行
少年の死体。
僕と不良はその横にいた。
不良が日本刀の先で何度か刺し、一応、首と胴体を切り離した。
これで問題はない、ということにしておきたい。
「どうやら、お二人ともこの船のお客様ではございませんね。」
奥から現れたのは、初老の男。
白髪にオールバック。
縁の内眼鏡に穏やかな表情をしている。
黒いスーツを着ているが、転生者の着ているスーツと微妙に形が違う。
そして、喋り方や所作。それらのすべてが物語るのは。
「執事をされているとか。」
「素晴らしい分析でございます。私目は。」
「爺さん、名前なんかあったってどうせ使わねぇんだし、教えてくれなくていいぜ。で、執事さんよぉ。あたしらはちょっとばかし、安楽椅子の老人とかいう、別の爺さんとお喋りしてぇわけだ。な、分かるだろ言ってること。」
「何でございましょうか。」
「案内しろよ。」
「執事さんはこの船の中の船員さんということでよろしいですか。」
僕は不良を無視する。
執事も不良を無視する。
悪くない。
「はい、そもそもこの船は事業としての形もとっておりますが、一番は海上のお屋敷として購入致したものでございます。私目はこのお屋敷、いえ、船の執事をしております。」
「この少年を殺したのは。」
「私目でございます。私目の能力は卒業旅行。乗船する際には必ず、名簿に名前を書いていただくことになっているのですが、それが完了いたしますと私目の能力を発動する条件が整うのでございます。名前を書いた人間がこの船上にいる限り、ありとあらゆる物理的な条件を無視して、即人生から卒業させます。」
条件付きの能力。
旅行系らしい能力と言える。
「お二人にお願いがあるので御座います。」
「一応、聞きましょう。」
「この船がシージャックされたのはご存知でしょうか。」
「あぁ、さっき一人ぶっ殺したぜ。」
「このシージャック犯たちは要人に紛れて中に入り込み悪さをしたので御座いますが、一応、名前を書いた人間を全員殺すことができました。」
「書いていない人間は何人いるのですか。」
「三人です。そのうち、二人は殺しました。」
「一人は、この少年ですね。」
「もう一人は、お二人が先ほど殺しておられた、私の同僚から赤色旅行の能力を奪ったシージャック犯でございます。」
「で、もう一人は誰だよ。」
「安楽椅子の老人で御座います。」
はあ。
なるほど。
「ちょっと待てよ、そいつ要人として乗ってるからお前ら側じゃねぇのかよ。」
「内通者だったので御座います。」
安楽椅子の老人は。
本当に、元、村人の手下なのか。
場合によっては。
現、村人の手下、という可能性も出てきた。
暗躍させるためにわざと、辞めたという体裁にしたのか。
いやいや。
それよりも前に。
「わりぃけどよ。まず、てめぇがシージャック犯じゃねぇっていう証拠がねぇんだよ。クソ爺。」
全くもってその通り。
そもそも、信用できないのだ。
さきほどの能力だって、実際に目で確認した訳ではない。
服装も執事らしいと言えばらしいが、先ほど殺した能力者と同様なりすましの可能性だってある。
どうする。
「お二人は、何故安楽椅子の老人にお会いしたかったので御座いますか。」
「なんで言わなきゃいけねぇんだよ、てめぇによ。」
「もしや、あの村人について情報を探っているとか。」
は。
こいつ。
何を言っている。
何故、当てられた。
何故、その村人の名前を出せる。
待て。
待てよ。
そう言えば、ここにワープする前のあの図書室で読んだ文字。
なんだった、内容は。
富豪から、村人についての情報を聞いてくること。
だった。
ということは、だ。
「貴方はここで執事をされている訳ですが、村人とはどのようなご関係ですか。」
「私目は投資家でありますから、村人が投資先で御座います。」
「失礼があったら謝ります。」
すべてが繋がる。
「貴方は何者ですか。」
「この船の執事兼、この船のオーナーで御座います。」
執事が微笑む。
いや。
そう言って富豪が微笑む。
そういうことか。
僕らが村人の情報を要求する相手は、安楽椅子の老人で確定だと思い込んでいた。
面倒なことだが。
今現在。
村人の情報を握っている富豪の候補は二人になった。
「執事をしているのは、金持ちの道楽と思って頂ければ。」
機嫌を伺わなければいけない相手も。
脅迫しなければいけない相手も。
二人。
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