第三十五話 蜥蜴抜刀 その2

「魔王って、なんかアニメとか見てた。」

「見てたんですか。」

「いや、あたしが聞いてるんだけど。」

「僕は、そうですね。カウトルファンクとか。」

「あぁ、お洒落な奴な。ああいう感じなんだ、へぇ。あたしはさ、ゆるるりやの夏、とか、めっちゃ見てた。」

「ああ、あの感動できるとか言って、全然泣けない萌豚クソアニメですか。」

「はぁ。お前、バカじゃねぇの超泣いたし。すげぇ、感動したし。ていうか、社会現象とかになったじゃねぇか。深夜アニメがトレンドになるのの、走りだったろ、あれ。」

「トレンドになっても、クソはクソです。」

 不良が立ち上がり、煙を僕に向かって吐き出す。

 僕はむせて距離を取るが、不良が後ろからついて回り、吐き出すのが終わると、今度は煙草の火の付いている先を僕に近づけてくる。

「殺しますよ。」

「やってみろこのクソ魔王。」

「というか、あんなアニメのどこがおもしろいんですか。普通に、ただ誰かが死ぬアニメですよね。それってよくあるっていうか。」

「そういうことじゃねぇんだよ。幼馴染との思い出がトラウマになってんだろ、あいつらは。でも、それを消化できないままモラトリアム期の終わりを迎えようとしてんだよ。で、そこに、そのトラウマに立ち向かうきっかけが現れた。」

「はいはい。」

「てめぇ、次、その気のねぇ相槌打ったらぶっ殺すぞ。」

「で、泣けると。」

「だから、トラウマに対してどう立ち向かうかに焦点を当てるんだけど、本質は結局過去に戻らなきゃ解決できねぇっていう、その辛さや葛藤に焦点を当ててんだよ。」

「結局、問題は解決できないということなんですか。」

「そう、解決できねぇんだよ。」

「何が面白いんですか、それ。」

「は。」

「だから、何が面白いんですか。問題は解決できないし、で、それで最終回ですか。」

「てめぇ、口のきき方に気を付けろよ。」

「いや、それはたぶん、製作者が物語を解決させるのを諦めたんですよ。それを、なんだか分からないけれど、面白いって解釈してるんじゃないですか。」

「てめぇ、ちょこちょこ馬鹿にしてくんな。いや、あたしのことはいいぜ、最悪な。でもよ、そのアニメを馬鹿にすんのは、どうなんだよ。おい。」

「いや、もし、僕がこうやって馬鹿にしてることが問題なら、そちらが僕が面白がれるように説明できてないことが問題なんじゃないですか。アニメの面白さの問題にすり替えないでください。」

「お前。」

「なんですか。」

「現実世界だけじゃなくて、異世界でも友達なくすぞ。」

「それは。」

 僕は首をかしげて少しだけ沈黙して次の言葉を考える。

 不良が呆れたように僕を見つめている。

「困りますね。」

 僕その言葉に不良が噴き出し、声を上げて笑った。

 僕は結構、真剣に答えたというのに。

 こういうことがよくあるから、不思議である。

「で。この後は、どうすんだよ。」

「まず、僕の体の中にある毒をどうにかしましょう。」

「あ。忘れてたぜ。」

「僕もです。さすがに死にたくはありませんし。」

「首斬ったんだし、そこから毒とか出せねぇのかよ。」

「出せるわけないでしょう。」

「じゃあ、まず図書室にさっさと戻るか。」

「えぇ、シームカードの情報も得られましたし、それに。」

 僕は視線を窓の近くへと向ける。

 図書室からこの豪華客船に来る時に通ってきた回転扉がまた現れていた。先は闇に包まれており、その雰囲気はこの豪華客船の持つものとはかけ離れている。

「次のフロアの指示はなんだろうな。」

「非常に気になりますが、その前にフロアマスターが先ですからね。」

「あぁ、マジでかったりぃなぁ。」

 僕と不良は回転扉に向かって歩き始める。 

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