第十七話 赤色旅行戦 その4

「ジェントル。電話はしないのかい。」

 その親会社に電話してみろ。

 いい、質問だ。

 それは間違いない。

 ただ、それを赤色旅行の能力で質問という形を使っていないのが幸運だ。

 ここで、お前は本当にハネルデヴェの社員なのか、という質問が来れば一発で殺される。

「ヘイ、ジェントル。」

「何でしょうか。」

「お前は本当にハネルデヴェの社員なのか。」

 最悪である。

 これ。

 本当に死ぬかも。

 僕は押し黙る。

「どうしたんだい、ジェントル。」

 男が笑う。

 ただ。

 ただ、こんな時でも。

 分かったことがある。

 この能力の一番の欠点。

 それは、答えないという逃げ方も存在するということ。

 そして。

 気が付いたもう一つの欠点。

 それは。

 あくまで嘘をつくと、弾が発射されるというだけで、即死させるという能力ではないということ。

 しかし。

 まったく状況が好転しない、情報である。

「答えるだけだろう。簡単じゃないかな。」

「簡単ではありません。」

「何故かな。」

 僕は日本刀に手をかけようとした瞬間。

 あるものに自分の指先が当たった感覚を味わった。それは正確には直接触った訳ではないのだけれど、それでも、その存在を思い出し、そして直ぐにそこからまだチャンスがあると分かるには十分だった。

「こちらです。」

 一気に取り出す。

 それは。

 女神と連絡を取り合うためのガラパゴスケータイ。

「それは。」

「これは、本部と連絡を取り合うために必要な特性の機械です。」

「能力を使う訳じゃあないのかい。」

「そうしたら、出張する社員は皆、連絡することができる能力を持っている人間に絞られてしまうでしょう。能力がなんであれ、通信できるものを渡せば誰でも情報共有は簡単です。迅速に行う、ほうれんそう、というやつですよ。」

「じゃあ、早速。」

「えぇ。かけましょう。」

 僕は女神へと連絡をする。

 さて。

 女神は当然、この状況を全く理解していない。そのため、連絡が来た時点でどのような返事をするかは無限の候補がある。

 そう思える。

 しかし。

 僕からかけた場合は、ある程度方向性は分かる。

 村人をまだ殺していないのに、暢気に電話をする余裕があるとはな。

 このあたりだろう。

 この言葉は今回の状況には結構当てはめやすい。というのも、最初に村人さえ抜いてしまえば。

 殺していないのに、暢気に電話をする余裕があるとはな。

 つまり、シージャック犯を殺していないのに電話をかけてくるな、という電話相手が皮肉を言っているように聞こえるのである。

「俺っちにも聞こえる様にしてくれるかい。」

「もちろんです。」

 さて、一気に厳しくなった。

 これで、音が出てくるところを指で押さえるなどして、女神の発言をコントロールすることが、難しくなった。というか、不可能だ。

「ジェントル。どうしたんだい。」

「どうした、というのは。」

「脂汗が滲んでるぜ。俺っちの見間違いじゃあなければな。」

「お気になさらず、少しばかり体調が芳しくないもので。」

「じゃあ、さっさとこの会話を終わらせて直ぐに本社に戻った方がいいんじゃないかな。」

「全くですよ。残業はごめんですからね。」

 通話ボタンを押し、携帯電話を僕と男の丁度中間の場所で持つ。

 さて、どうする。

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