第三話 居残抜刀
居残抜刀でさえ、かなり異常な能力であると思う。
日本刀を振り回し、それが何かを斬ったか斬らなかったかは別にして、そこに斬撃を残す能力。
つまりは、あらかじめ空間を斬っておいて、そこに人を呼び寄せれば罠としても使える。他には、人を斬ればその傷口に永続的に斬撃の居残りさせることで、永遠に深手を負わせ続け治癒させないこともできる。使い方によっては悪趣味な方向に幾らでも伸ばすことができる。
後輩もどきは。
いや。
ここから先は長いので、後輩というあだ名で呼ぶことにするが。
後輩は、罠としても使うし、治癒させないようにするためにも使う。もっと言うのであれば、その能力の正体を上手く隠しながら、相手に違う能力であると勘違いさせる、という離れ業までやってのける。
だから、この三人の中でも。
一番、人間という生き物を。
心底馬鹿にしている。
僕と不良も含めてである。
信用はしていると思うが、自分がこの三人の戦力や核を引っ張り上げていると本気で思っている。だからこそ、腰が低いのだ。自分の実力を心の底から信じているので表面的に敬語を使えるのである。
僕も不良も、この後輩だけは全く信用していない。
例え、命をかけて守ってくれてもである。
後輩も命をかけて守られたところで、別に信用するわけもないだろう。
車両の扉が開いた瞬間、入ってきた敵の腕と首が飛んだ。
見慣れた光景なので、直ぐに後輩の腕が不良の体を貫通している光景に視線を戻す。
「そりゃ、まあ。扉の一つや二つ、斬撃の居残りさせといたんで大丈夫だとは思ってたんすけど。」
「じゃあ、なんでてめぇ、それをあたしらに言わねぇんだよ。」
「それで死んだら、あんたらの実力の問題なんじゃないっすか。」
僕は二人を置いて、先ほど開いたばかりの扉を通り、前の車両へと進む。
血なまぐさいのはどこも同じだが、蝙蝠抜刀によって思ったよりも車両内は汚れていなかった。素晴らしい。心おきなく疲れたら座ることができる。
汽車が次の駅に到着するまで、およそあと二時間ほどある。
あの二人の声を聞きながら時間を潰さないといけないのは、精神衛生上よくはない。物理的な距離は時として精神的な距離と比例する。そういうことだ。
僕は胸ポケットにある注射器の数を確認する。
四本。
三時間十二分六秒。
その間に右の眼球へ注射を行う。
そうしなければ失明してしまう。
この話は。
そう。
後でしようかと思う。
その時。
携帯電話が鳴った。
ガラパゴスケータイと呼ばれるような形の折り畳み式の古い携帯電話。異世界転生前の世界に存在している、この異世界では異物の存在。
僕はズボンのポケットから取り出し、通話ボタンを押す。
「もしもし。私ですが。」
「あら、何故早く電話に出てくださらないのかしら。」
「申し訳ございませんでした。今、取込み中だったもので。」
「あら、本当は面倒くさかったのではありませんこと。」
「いえいえ、そんなことは。」
「嘘は好きではありませんの。」
「いや、その。」
「本当のことを言ってくださらないかしら。」
「そんなことを仰らないでください。」
「嘘つき。」
電話の相手はそこから一分間。
沈黙を貫きとおした。
僕は呼吸音も相手に伝えてはいけないと、口を抑え、その上で息をできる限り止め、堪えられないときは小さく息を吸い、そして、吐いた。
「あの二人、早く殺してくださらない。」
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