突然異世界に転生した俺は、最初からTUEEEEE系主人公で、しかもペンギンのように完璧な可愛さを持ち、勇者のパーティでエース級の活躍をしていたけれどレアアイテム目当てに仲間を皆殺しにして、今は…

エリー.ファー

第一章 タイトルこそすべて

第一話 黄金抜刀

 僕は列車に乗っていた。

 いや。

 正確には汽車か。

 いや。

 どうだっていいか。

 異世界に転生する前には学校に行くために電車を乗り継いでいた。今、こうして異世界に来ても、僕は高速の乗り物となると、電車を想像してしまう。

 頭の中に浮かび上がる単語が電車であるという事実に、僕自身驚いてしまう。

 異世界転生をして、もう二年経過していた。正直、転生する前の人生がどうであったかなど、思い出すことすら億劫になってくる。

 十年。

 二十年。

 三十年でもいいかもしれない。

 それだけの時間がもう流れてしまったかのように感じる。

 僕は窓の外を眺めようとした。

 窓に何か張り付いている。

 隣に座っていた夫人の瞼だった。

 よく見ると睫毛がそこから伸びて毛先が震えていた。筋肉の痙攣が起きているということである。

 僕はそう言えば、とポケットの内側の切符を探す。

 あれがないと、降りる時に車掌さんに怒られてしまう。どこにしまっただろうか。本当に、こういう時に自分のことが嫌になる。

 何故、しまう場所を決めておかないのだろう。そして、決めたとしてそれを習慣づけられないのだろう。

 人間というのは、過去から学ぶものだが、過去に引きずられるものでもある。しかも、それを人生の醍醐味などとほざく輩もいるから厄介である。

 僕は血で固まっていた窓の鍵を外すと、外の空気を入れた。

 爽やかだった。

 本当に。

 ただひたすらに爽やかだ。

 鼻の奥が僅かに冷たく感じる。

 冷気が通ったのだ。

 僕は少しだけ背筋を伸ばして、頂上に雪の積もった山を見つめた。あのあたりの気温は何度くらいだろうか。そう、思う。

 思ってはみたが。

 思うだけで、直ぐに熱風を感じた。

 後ろの車両からだった。

 おそらく、誰かのうめき声がしたのだろうが、直ぐに消えてしまう。木々がお互い身を寄せ合って、割れていくかのような悲鳴にも似た何か。そして、それが収まると、金属が何かに当たっているのか、甲高い一定のリズムが聞こえてくる。

「いいっすよね。別に。」

 後ろの車両から声が聞こえる。

「もう、やってるじゃないですか。」

「いや、そうなんすけど、事後報告でもしなきゃいけないじゃないっすか。こういうのって、だって、先輩そういうの怒るじゃないっすか。」

「怒ったりはしないです。」

「でも、無視するっす。」

「無視はします。」

「するじゃないっすか。」

「人間にできる行動の中で無視が最も有益です。」

 僕は立ち上がると、そのまま通路に出て死体の上を歩く。

 うつ伏せで死んでくれていると、背中は平らなので歩きやすい。問題は仰向けである。骨やら臓器やらが邪魔して歩きにくい。

 できれば、本当にできればでいいので。

 今度死ぬときはうつ伏せで死んで欲しい。

「三十九っす。」

「今日は、五十とか。」

「いや、言ってたっすけど、それは、あくまで約束なんすから。」

 扉の奥から明るい声がする。

「なあ。別になんでもいいんだけどよ。あたしは自分の車両はもう終わったからな。」

 前の車両から戻って来る。

 体に血はついていなかった。

 相変わらず器用だと思う。

「お前、ずっとこんな感じなのかよ。」

「何がですか。」

「だから、こうやって殺してばっかなのかって。」

「はい。」

「あたしならとっくにもう死んでる。すげぇな、お前。」

「自分が凄いことは知っていますけど、死なないようにするのは誰にでもできますよ。」

「事実しか言わねぇよな、お前。」

 魔王なんてやっていたら結局、こういうことになる。

「あの、扉、開けて欲しいんすけど。そっちから鍵かけてるんじゃないっすか、これ。」

 僕はとりあえず、無視をする。

 ノックの音が聞こえる。

 もちろん。

 無視をする。

 何度も何度も強くノックされる。

 近くにあった耳をむしって、後ろの車両の扉に向かって投げつける。

 直ぐに静かになった。

 こういう所が大好きだ。

「みんな、勇者になりてぇんだな。」

「殺しても願い事ですから。」

「異世界転生して、何が変わるって言うんだろうな。あたしには分かんねぇよ。」

 僕は近くにあった太った死体に寄りかかるように座る。

 胸ポケットから注射器を取り出して自分の右の眼球に差し込み、流し込む。

 これがなければやっていられない。

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