2.あったか屋の愉快な面々②
私の起きた時間でわかるかもしれないけれど、あったか屋──お弁当屋さんの仕事は朝が早い。
如月さんや店長にからかわれながらも何とか五時五十九分にタイムカードを切る。
本当にギリギリセーフだ。
それからエプロンを着け、頭に三角巾を巻いて厨房に出た。
「ご飯のセットはもうしたから。しろちゃんはそっちの付け合わせの準備、よろしくね」
「はい! ありがとうございます!」
如月さんの指示に合わせて、私はひじきを煮込みながらきんぴらごぼうを作り、如月さんはエビフライやハンバーグなどの下拵えをする。
私が大量のきんぴらごぼうを作り終え、ひじきの仕上げに入ったとき、
「おはようございます!」
という声が聞こえた。
「あ、
「咲ちゃん、おはよう」
私たちが口々に挨拶をすると、三谷さんはまだ三角巾を着けていない頭を思いきり下げた。
長くて綺麗な茶色い髪がサラリと揺れる。
「すみません、また寝坊してしまって……」
「いいのよ~」
「気にしないで下さい!」
三谷さんの得意技は寝坊だ。よく寝坊をしてくる。
だけどどこか憎めない、年上のお姉さんに失礼かも知れないけれど……なんと言うか、可愛らしい人だ。
「私、なにすればいいですかっ!?」
「取り敢えず、咲ちゃんは三角巾着けようか~」
「はっ! 忘れてた!!」
三角巾を着けた三谷さんも厨房に入り、私たちは三人で朝の仕度を順調に進める。
三谷さんが作る卵焼きの匂いに食欲をそそられる。
思わず、私のお腹がぐぅ~と鳴った。
……そういえば私、ご飯食べてないんだった。
「アキちゃん、お腹すいたの?」
三谷さんがクスクスと笑いながら私を見た。
「えぇ。ご飯食べてなくて……」
「え、ご飯食べなきゃダメだよ! はい、おひとつどうぞ」
三谷さんはそう言いながら私の口にひょいと卵焼きを一切れ入れてくれた。
「んんっ! おいひぃ~」
「でしょー?」
三谷さんの卵焼きはやっぱり絶品だ。
何個でも食べたくなってしまう。
「こら、咲ちゃん。城田さんを甘やかさないの」
「あ、店長もおひとつ。あーん!」
「……可愛い子にあーんって言われちゃ断れないよねぇ~」
店長は三谷さんに言われるがまま、卵焼きをパクンと食べた。
「うん、美味しいね」
「ありがとうございますっ!」
「如月さんはどう?」
「あとは女の子相手に鼻の下伸ばしてやがる米倉さんをシメたら終わりです」
「ちょっ、物騒!! やめて! 包丁出さないで!!」
そうやってジャレ合う二人に、私は微笑んだ。
仲がいい二人が少しだけ羨ましい。
そう思ってから、私はふと何でだろうと思った。
別に私も仲が悪いわけではない。むしろ仲良くしてもらっている方だ。
それなのに──私はいつからこんなに貪欲になったのだろう。
……何てらしくもなく小難しそうな事を考えてしまった自分に苦笑いを溢す。
そんなことをしているものだから、
「城田さん、助けてっ! 俺殺されちゃう!」
「わぁっ!?」
いつの間にか走り寄ってきていた店長に気付かず、心臓が跳び跳ねる。
「米倉さんっ! しろちゃんを盾にしないっ!」
「だって由良サン怖い~。城田さん助けて~」
「えっ……、……えぇぇ……」
どうしたらいいのか分からず固まる。
「しろちゃん」
「城田さん!」
前後から感じる二人の視線が凄い……。
目が大きく、目力が強い如月さんと、イケメンの店長の視線に耐えろとか、無理難題。
「わ、私シャッター開けてきますっ!」
「あ、逃げたっ!」
「城田さん~!!」
私は二人の視線と声から逃げるようにその場を離脱した。
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