4.あったか屋の愉快な面々④

 朝八時から十時までのピークタイムを終えると、次は昼十二時から二時までのピークタイムに備えて足りなさそうな分の仕込みをする。


「しろちゃん、サラダの準備出来た?」

「はい! あと冷蔵庫に入れるだけです!」

「由良さーん! 卵焼き、あと何本焼きましょうかー?」

「あと三本くらい行っとこうかー!」

「了解でーす!」


 あったか屋のお弁当は朝よりも昼の方がよく出る。

 しかも、ピークではないと言うだけでお客様は変わらずにご来店されるので同じ準備時間でも厨房からは朝のようなのどかさはない。


「しろちゃん、それ終わったら休憩ねー!」

「はーい!」


 一通りの支度が終わった所で順番に休憩を取る。


「休憩いただきまーす」

「あ、城田さんお疲れ!」


 事務所に行くと、店長が笑顔で迎えてくれた。


「お疲れ様です。店長は今から銀行ですか?」

「うん、そう。ついでに何かいるものある?」

「いえ、何も……」


 そう言ったところで私のお腹がきゅるるる……と音を立てた。


 ──あぁぁ!何てタイミング!!


「……ぷ、あははっ! 何かさっと食べれそうなご飯買ってくるわ」


 店長はそう笑って言ってくれたけど……あぁもう、恥ずかしすぎる。

 私は熱くなってしまった顔を押さえながら「すみません……お願いします」と言った。



 二十分程して帰ってきた米倉さんは宣言通り、コンビニでおにぎりを買ってきてくれた。

 ……でも、十個って。


「……店長」

「ん?」

「私、こんなに食べれません」

「何言ってんの。食べれるだろ……てか、食べなよ。城田さんはちびっちゃいんだから」

「ちびっちゃいって……!」


 確かに小さいけど!

 身長一五〇ないけどさ!!


「食べたら大きくなれるよ」

「本当ですか? 身長伸びますか?」

「いや、縦には伸びない。横には伸びるけど」

「やっぱりいりません!!」

「そんなこと言わんと~」


 店長はそう言いながら袋から頭を出していた鮭おにぎりを手にとって開封し、それを私の口に突っ込んだ。


「!?」

「美味しい?」

「むぐぅ、むむっ」


 放り込まれた口いっぱいのおにぎりを必死に飲み込もうとしていると、

「ははっ、スゲー顔」

と店長に笑われてしまった。


「ぐふっ、げほっ。もう、意地悪しないで下さいよ!」

「ごめんごめん。でも、想像通りの可愛い反応をありがとう」

「またそんな……からかわないで下さいよ!」

「あははは。じゃ、しっかりご飯食べなよ」


 そう言って店長は私の頭をポンポンと叩いてから厨房に出ていった。


 ──ほんと、女たらしなんだから……。


 私はツナマヨのおにぎりを口に含んだ。




 全員の休憩を終えると、丁度昼ピークタイムが始まる。

 お昼はこの辺の会社の方が沢山来るので、見慣れたお客さんが多い。


 ──あ、この人、にんにく好きなのに今日はにんにく抜きなんだ。大事な用事でもあるのかな。


 ──この人、中華好きだなぁ。今度のチンジャーロース発売の時に声を掛けてみよう。


 ──この人は最近来てなかったのにまた来はじめてる……見た目も荒れてるし、失恋でも……。今日はゼリーサービスしておこう。


 なんて思いながら注文を聞き、それを厨房に飛ばす。

 人間観察、面白い。


「お疲れ様~!」

「疲れた~!」


 昼ピークタイムが終わったら、もう終わりも同然だ。

 皆でほんの少しの休憩がてらジュースを飲む。


「それにしても、今日のしろちゃんの『はっぴょうしゃい』は面白かったなぁ」

「ですね!その後の如月さんの『発表?まさか……結婚発表!?』っていう突っ込みも中々でしたけど」

「忘れてください~!」

「可愛かったな」

「店長はまたそうやってからかう!!」


 ジュースを飲んで一息ついて、夕方に向けてまた仕度をしていると

「おはようございます!」

「っざいまっす」

「おはようです!!」

「あ、おはようございます!」


 夕方勤務のバイトリーダーの堀田ほったさん西村にしむらくんとさんと北川きたがわくんが出勤してきた。


「今日は忙しかった?」


 堀田さんに聞かれ、「まぁぼちぼちって感じですかね」と答えると、北川くんが「だりぃな~」と金髪に染めた髪をガリガリと掻きながら欠伸をする。

 対して西村くんは「今日も頑張るス!!」とガッツポーズ。

 この夕方勤務メンバーは個性豊かで面白い。

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