3.あったか屋の愉快な面々③
「ふぅ……」
何とか戦いの場から逃げ延びた私は、店の表に回った。
降りたままのシャッターの鍵穴に事務所から持ち出してきた鍵を差し込んで回すと、カチャリという音と共に鍵が開いた。
「よいっしょっと!」
力を込め、シャッターを頭の上まで持ち上げる。
ガラララと音を立てて開いたシャッターを今度は鉄の棒を使って全開にすると、店の中に柔らかい朝陽が差し込む。
この中で如月さんと店長の熾烈なる戦いが繰り広げられているなんて、嘘みたいだ……。
「今日もいい天気だねぇ、城田さん」
不意に背後から掛けられた声に驚き、振り向くとそこには、戦いから逃げてきたらしい店長が立っていた。
「わっ! て、店長!! ……無事だったんですね」
「もう、俺を置いて逃げちゃうなんて酷いよ、城田さん」
「だって、如月さんに立ち向かって勝てる気がしないですもん」
「はははっ、確かに如月さんは強いからねぇ」
そんなことを話ながら裏から事務所に戻り、シャッターの鍵を戻してから厨房を通ってカウンターに向かう。
カウンターでは仕込みが終わったらしい如月さんが掃除をしていた。
「でも、如月さんに店長を差し出せば良かったですかねぇ」
「そうよ、しろちゃん。店長の女たらしは一度殺さないと直らないわよ」
「いや、俺女たらしじゃねぇし」
「じゃ、女好き? どっちにしてもロクでもないのは確かだわ」
「それは男の本能なんだから仕方ないだろ~」
「そうかもしれないけど、米倉さんは少しは隠す努力をしてください。駄々漏れすぎ。そのうちしろちゃんや咲ちゃんにセクハラで訴えられても知らないわよ」
「……城田さん……」
「……あーっ!ほんといい天気ですね~!」
私は店のガラス戸越しに見える青空を見上げた。
ただの現実逃避だった。
六時に始めた仕度は七時二十分には終わる。
「よし、準備はいいかな?」
店長の質問に対し、
「厨房、仕込みオッケー!」
「カウンターも掃除完了しました!」
と確認しながら答えていく。
「咲ちゃん、体調大丈夫?」
「元気一杯です!」
「城田さん、誰かにナンパされる準備は出来てる?」
「は……って、何ですかそれ!?」
「今日の天秤座の運勢、ナンパされるでしょうだったから」
「いやいやいや! そんな占いあります!?」
「ちなみにラッキーアイテムはあったか屋のイケメン店長だから」
「絶対嘘ですよね、それ!?」
「何言ってんの。占い師・ヨネクーラコメグーラの本日のあったか占い(きらーん)が信じられないの?」
「信用性なさすぎる!」
そんな愉快な会話を楽しんでから、ようやく開店。
七時半。自動ドアの電源を入れ、お客様のご来店を待つ。
この辺りには商社が多い。
だから、この時間にその日のお昼御飯を買いに来る人が多い。
「おはようございまーす!」
基本的には私がカウンターに立ち、お客様を出迎え、注文を聞き、会計をしてお弁当を渡す。
で、如月さんと三谷さんが協力して厨房を回す。
店長は基本的に裏でお金の管理などをしているが、繁忙時間には如月さんと三谷さんと共に厨房に入ってくれる。
「あったか弁当一丁お願いしまーす!」
私がカウンターから厨房に注文を飛ばすと、
「はーい!あったか弁当一丁~!」
と三谷さんの元気な声が返ってくる。
いつも元気で凄いなぁ……。
お弁当は物にもよるけど、大体五分から十分くらいで出来上がる。
「はい、あったか弁当」
如月さんがカウンターと厨房の間にある小窓からお弁当を出してくれる。
私はそれを受け取り、袋に詰め、割り箸を入れてお客様に渡す。
「お待たせしました!あったか弁当です!」
「ありがとう。うわ、うまそー!」
お客様がご飯の時間が待ち遠しいと言わんばかりの表情で出て行かれるのを見ると、私も嬉しくなる。
「からあげ弁当一丁~!」
今日も元気よく、笑顔でお弁当を売っていく。
この仕事は本当に楽しい。
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