51.葵の想い③
✼*✼*✼*✼*✼*✼*✼*✼*✼*✼*✼*✼*✼*✼*✼*✼*✼
──賭けだった。
米倉紅夜が秋花の事が好きだなんて、二人が話しているのを見たときに、すぐに分かった。
秋花を見つめるその目には僅かにだけど、でも確かに゙愛しざが滲み出ていたから。
多分他の人は誰も気付けないだろうというくらい微かだったけれど、気付けたのは、多分、同じ人を好きだからだ。
何にせよ、秋花も米倉さんの事を好きだと言っていたし、二人は早々にでもくっつくだろうと想っていた。
それは俺にとっては苦しいことだったけれど、でも秋花が本当に好きな人と一緒になれるのなら、それでいいと思っていた。
でも、それどころか、秋花は突然冷たくなった米倉さんの態度に傷つき、泣いていた。
何してんだよ、と思った。
俺なら、絶対にそんなことしないのに、と。
だから、俺は決めた。
ここで、男を決めると。
俺は米倉さんに会いに行き、敢えて米倉さんを挑発し、明日のデートの事を話し、その上で俺に取られなかったら来いと言った。
もしそれで米倉さんが来なかったら、半ば無理矢理にでも秋花を俺のものにしてしまおうと思っていた。
でも、米倉さんは来た。
少しだけ、息を上げて。
しかし、米倉さんは俺たちを見るなり通りすぎていってしまった。
その顔は無表情だったけれど、でも何処か晴れ晴れとしていて。
気のせいかも知れないけれど、「彼女を頼む」という、米倉さんの声が聞こえたような気がした。
──米倉さん、あんたも男なんだな。
俺の負けだよ。
秋花の方を見てみると、秋花は遠ざかっていく米倉さんの背中を寂しそうに見送っていた。
大丈夫だよ、秋花。
君の心は、もう全部わかってる。
「……追いかけなよ」
俺の言葉に、え、と秋花が顔を上げた。
「秋花の想いは、分かってる。米倉さんの事が好きなんだろ?」
「……」
「だったら、今追いかけなかったらきっと後悔するよ。だから、行きな」
「でも……」
本当は今すぐにでも追いかけたいだろうに、秋花は俺のことを気遣っているのか、追いかけようとしない。
そんな秋花に、俺は優しく微笑みかけ、「いいから」とその背中を押した。
「秋花はきっと、大丈夫だから」
秋花も、米倉さんも、お互いをきちんと想いあってる。
だからきっと、幸せになれる。
「アオ……っ、ありがとう!」
「……ん、行ってらっしゃい」
秋花は、人並みを縫って、米倉さんの許に向かって走り出した。
──バイバイ。どうか、幸せで。
「行ってらっしゃい」とは反する言葉を秋花の後ろ姿に掛けながら、
俺は、愛する人の背中を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます