45.答え④

 ショッピングモールへは、とても久しぶりに来たような気がする。

 私が太陽の眩しさに目を細めながら大きなショッピングモールを見上げていると、アオが「そんなに珍しい?」と言って笑った。


「だって、ショッピングモールなんて中々来ることないんだもん」

「職場のお姉さん達と来ないの?」

「いつも近場のカフェで済ませちゃうからなぁ」

「そっか。じゃあ、今日は思う存分見て回ろうか」


 アオはそう言って、入口に向かって歩き出した。私も車に気を付けながらその後に続く。


 中に入ると、広大な空間が広がっていた。

 モールの中心は吹き抜けになっていて、遠くの方でステンドグラスの天井が秋の日差しを浴びてキラキラと輝いている。

 いくら来るのが久し振りだとはいえ、何度かは来たことがあるはずなのに、何だか異世界に来たような気分になった。


「一階は食品売り場と飲食店とかばかりかな。二階に映画館とゲームセンターとフードコート、三階と四階が服屋靴屋と雑貨屋さんとか玩具屋さん……あ、本屋さんは四階か。五階がスポーツ用品店とか、楽器屋さんとかの趣味系だね」


 アオがフロアマップを広げながら「どこに行きたい?」と聞いてきてくれる。


「お腹すいたから、何か食べたいな」


 そう答えると、アオは「丁度よかった、実は俺もお腹ペコペコなんだよな」と言って笑った。


 晩御飯には早いし、ということで私たちは二階のフードコートで十個入りのたこ焼きを一つ買ってそれを半分こすることにした。


「秋花、ゆっくりでいいからね」

「うぅ……猫舌め」


 しかし、たこ焼きほど、猫舌と相性が悪いものはない。いつまで経っても中身が熱々なたこ焼きは、一つ食べるのにも数分掛かる。

 それでもたこ焼きが好きな私は、たこ焼きを食べるときが一番、猫舌じゃない人が羨ましくなる。

 アオとか、私が二個食べるうちに全部食べきっちゃってるし。舌の構造とか、一体どうなってるんだろう。


 結局、たこ焼きにたっぷり十分以上、時間を取られた。美味しかったけど、何だか勿体無い。


 フードコートを出て、私たちは映画館の方に向かって歩き出した。アニメイトやヴィレヴァンなどがあるからか、心なしか他のエリアよりも人が多い気がする。


「秋花は、何か好きなアニメとかあるの?」

「んー、私はあまりアニメは観ないかな。漫画は読むけど。アオは?」

「俺は何か有名なやつは観るよ。ほら、あの海賊のやつとか」

「あ、あれ凄い人気だよね」


 そんな話をしながら何処かに入るでもなく歩いていると、あっという間に突き当たりにある映画館の前までやって来た。

 映画館独特の、ポップコーンやドリンクなどが混じったような香りがする。

 アオはそこで立止まって、再びフロアマップを開いた。


「秋花、本屋さんでも行く?」

「んー、本屋さんって四階だっけ? 三階を見てからでも……」


 そう言いながら私は映画館の入口に貼られているポスターを眺める。

 こんな映画がやってるんだ、なんて思いながら見ていると、ひとつだけ見覚えのあるタイトルがあった。


「あ」

と思わず呟くと、アオがすぐにそれに反応し、「何かあった?」と私の視線の先に目をやった。

 そのポスターには『花咲く君へ』というタイトルと、短い紹介文、最近人気の女優さんと俳優さんが載っていた。


「秋花、この映画観たいの?」


 アオに聞かれて、半ば反射的に首を縦に振っていた。

 不思議だった。

 いつもなら、原作の小説を全部読み終わってからじゃないとこういう映画は観たいと思わないのに、この作品に関してはそれよりも先に、結末が気になる気持ちの方が勝った。

 店長がこの作品に夢中になったのも、無理もないかもしれない。


「じゃあ、観ようか」


 アオがそう言いながら映画館の中に入っていこうとする。


「え、でも、いいの? ショッピングとかするつもりだったんじゃ……」

「いや、何も考えてなかったし、それに秋花が好きなやつなら俺も観てみたい」


 アオは慣れた様子でチケット売り場まで行き、受付のお姉さんに「このチケットを二枚下さい」と言った。


「あ、アオ、私お金出すから!」

「いーからいーから」


 しかも、またアオにお金を払わせてしまった。何してるんだろう、自分。

 タイミングよく十分後に上映があったので近くの自動販売機でお茶を二本買い、すぐに館内に向かった。


 平日だからか、はたまた「花咲く君へ」を観に来る人が少ないのか、館内はガラガラだった。

 アオが「ここからが一番観やすいんだよ」と指定しておいてくれた真ん中辺りにある席に並んで座り、上映開始を待つ。映画って、この時間が一番ドキドキすると思うのは、私だけだろうか。


 やがて、館内の照明が暗くなって現在上映中の映画や次回作の宣伝やCMが始まる。

 よく見るビデオカメラとポップコーンの話を見たあと、遂に「花咲く君へ」が始まった。



 映画の「花咲く君へ」は、小説に忠実だった。

 彼、ことユウのイケメンだけどヘタレなキャラは健在だし、花の明るい性格も上手く再現されている。


 ユウの苦悩、花への想い。

 全てを乗り越えたところで、物語はフィナーレを迎える。


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