46.答え⑤
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「……好きだ」
煩すぎるくらい鳴り響く心臓の音を掻き消すように絞り出した声は、口に出してしまえば悩んでいたのが馬鹿みたいに思えるくらいに、呆気なく彼女の元へと届いた。
「……え」
夜風が優しく頬を撫でる。
その風に乗せるように、ユウはもう一度「好きなんだ」と言った。
「あ……えと」
戸惑ったように瞳を揺らす花。
花の心が落ち着くのを、ユウは何も言わずに待っていた。
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映画を観ながら、私はどうしてこの作品がこんなにも気になるのか、分かるような気がしていた。
男女逆だけれど、花とユウは私と店長の関係と似ているんだ。
恋に悩むユウは私。
ユウの心を振り回す花は店長。
だからこそ、私は早くこの結末を見届けたい。
二人が幸せになるところを、見届けたいんだ。
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気がついたときには、花はユウの視界から消えていた。
その代わりに、腕にはしっかりとした温かさと、柔らかさがあった。
「私も……私も、好きです……」
ユウの胸に頭を埋め、そう呟く花。
ユウはその頭を抱き締めたい気持ちを抑え、言った。
「本当に、俺でいいの……? だって俺、君と十歳も年上だし、自分勝手だし、お金もないし、きっともっといい人がいるのに……」
「そんなの、関係ありません」
花はユウの胸から少しだけ離れ、ユウの顔を見た。
「年上だとか、お金がないだとか、関係ありません。どんなユウさんでもいいんです。ユウさんがユウさんであれば、それでいいんです」
そう笑って言う花を、今度は躊躇することなく、ユウは思いきり抱き締めた。
「ありがとう……」
そして、物語は終わりを告げる。
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「面白かったね」
アオが座席から立ち上がりながらそう言った。
私はエンドロールが流れ終わり、もう何も映っていないスクリーンを見ていた。
「秋花?」
「ん? ああ、ごめん。面白かったね」
思わず呆けてしまっていたことに気が付いた私は、慌てて立ち上がった。
「そんなに慌てなくていいよ。ていうか、そんなに面白かったなら良かった」
「ん……凄く、面白かった」
私は、花の言葉を思い出していた。
──どんなユウさんでもいい。ユウさんがユウさんであればそれでいいんです。
「ねぇ、アオ」
「ん?」
「変なことを聞いてもいい?」
ゾロゾロと出入口から出ていく人を見ながら、私はアオに聞いた。
「どうぞ」
「アオは、私のどんなところを好きになったの?」
アオが一瞬、息を飲んだのが分かった。
館内から私たち以外誰もいなくなり、静かになったところで、アオがゆっくりと口を開いた。
「んー、好きなところをあげたらキリがないけど、でもそれは建前、かな」
「建前?」
意味がわからずに、私は首を捻った。
「うん、建前。実際、理由なんてあってないようなもんだよ。好きだと思ったら好き。ただそれだけ」
だから、あの花って子の気持ちは分かるかな、とアオは笑って言った。
「秋花も、そうなんじゃない?」とも。
「……私は……」
「すみません、清掃を致しますので、退出をお願いします~」
映画館の清掃員の人にそう言われて私たちは漸く、館内から出た。
ドアを抜けると、人がゾロゾロと歩いてくるのが見えた。放送からすると、みんなは大人気ロボット映画のシーズン5を見に行くのだろう。
アオがさりげなく前に出てくれたお陰で、私は人に押されることなくチケット売り場まで戻ってくる事ができた。
「凄い人だったね~」
「一人だったら人波に流されて私もロボット映画観ることになっちゃってたかも」
「あはは、秋花ちっこいもんな」
「ちっこくないもん!」
そんなことを言いながら映画館を出て、来た道を戻る。
さっきまでアニメイトの中を物色していた人達が、今度はアニメイトの前で自らの戦利品を仲間らしき人達に見せていた。
「ま、ちっこい所がまた可愛いんだけどね」
「からかわないでよ!」
「からかってないよ。事実だし」
「またそんなこと言う!」
吹き抜けの所まで戻ってくると、何だか先程よりも人が増えているような気がした。
「人、増えてきたね」
アオも同じことを思ったらしく、辺りを見回しながらそう言った。
「皆、仕事帰りとかかな」
「こんだけ人がいたら、知り合いがいても気付けなさそうだよね」
「そうかもね……」
それなのに、何でだろう。
何故、気が付いてしまったんだろう。
多分、きっと、気付かない方がよかったのに。
気付いても気付かない振りをした方が良かったのに、私は気付いた瞬間、思わず足を止めてしまった。
「……秋花?」
アオも同じように、足を止める。
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