47.答え⑥

「……店長」


 自然と口から溢れ出たその言葉は緊張からか掠れて出てこなくて、震える唇だけが動いた。

 それでも届いたのか、はたまた偶然なのか分からないけれど、店長は通りすぎる寸前、確かに私を見た。


 私を見て、目が合って、そしてすぐに目を逸らされた。


 その瞬間、心臓がぎゅうっと掴まれたような痛みに襲われる。


 店長はそのまま私の方を気にかけることも足を止めることなく、エスカレーターの方に向かって歩いていってしまった。


 その後ろ姿が切なすぎて、私は俯いた。


「秋花」


 アオが私の名前を呼ぶ。

 けれど、私はアオの方を見ることが出来なかった。

 顔を上げたら、きっと醜く歪んでいるであろう顔を見られてしまうから。


「秋花」


 ──あぁ、あの夢と同じだ。


 私を見た時の店長の顔は、今朝見たばかりの夢のそれで。

 そして私は夢の中と同じように、店長が去っていくのを見送ることも出来な……。


「秋花、何してるの。早く追いかけなよ」


 私はアオの顔を仰ぎ見た。


「秋花は、店長……米倉さんの事が好きなんでしょ? なら、追いかけなよ」

「……でも、」

「俺の事を気にする必要はないよ。元々、そういうつもりだったんだし・・・・・・・・・・・・・・・・

「え?」


 ──そういうつもりだった、って、どういうこと?


 アオは、こうなることを知っていたのだろうか。

 いやでも、店長がここに来るなんてことをアオが知るはずがない。だってそもそも、店長は今日、体調不良で休んでたのだから。


 ……そういえば、体調の悪いはずの店長が何でここに?


 訳がわからなくて考えていると、アオの手が頭にそっと乗せられた。


「……秋花は何も気にしなくていいんだよ。秋花は、ただ自分の心に素直でいればいい」


 それは、北川くんに言われたのと同じことだった。


「アオ……」

「秋花の想いは、分かってる。米倉さんの事が好きなんだろ?」

「……」

「だったら、今追いかけなかったらきっと後悔するよ。だから、行きな」

「でも……」


 アオを置いていくなんて、と躊躇するけれど、でもきっとアオにはそんな私の心の中なんてお見通しで。


「いいから」


 私に優しく微笑みかけて、そして優しく、背中を押してくれた。


「秋花はきっと、大丈夫だから」

「アオ……」


 きっと辛いはずなのに、いつでも背中を押してくれるアオ。


 そんなアオに私は「ごめんね」と言い掛けて、やめた。

 アオはきっと、そんな言葉は望んでいない。


「……っ、ありがとう」


 太陽のように温かくて、悲しくらいに優しすぎる、私の事を誰よりも想ってくれる大切な幼馴染み。


「……ん。行ってらっしゃい」


 私はそんなアオの許を離れて、走り出した。

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