9.この気持ちは何?①

「……で、後は何処にも寄らずに帰ってきたの? ご飯食べただけで?」

「そうですけど……」


 場所はあったか屋の近くのお洒落なカフェ。

 今日は水曜日の定休日で、如月さんと三谷さんと共にお茶を嗜みに来ていた……の、だが。


「そこはカラオケとか行かない!?」

「何でっ!?」


 何故か私は叱責を食らっていた。

 昨日の店長との食事会の様子を聞かれて、それに真面目に答えたのがいけなかったようだ。


「何でって……デートだからだよ!」

「昨日も多分言いましたけど、デートじゃないですよ。現にあの後、店長もお二人を誘えなかったって言ってましたし」

「そんなこと言ってたの?」

「はい」

「……あのバカ……」


 如月さんは頭を抱えた。でも、私には何故頭を抱えたのかさっぱり分からなかった。

 なので取り敢えずすっかり氷が溶けてしまったアイスコーヒーを啜る。

 ちょっと薄い……。


「アキちゃんって、恋ってしたことあるの?」

「えっ!? な、何ですか藪から棒に……」

「んー? アキちゃんが鈍感すぎるからさ~」

「鈍感って、どの辺がですか?」

「全部」


 三谷さんはもう中身が入っていないオレンジジュースを「ずずっ」と吸った。

 新しいの、頼めばいいのになぁ……。


「まぁ、最初はそんなもんなのかも知れないけどね。恋に気がつかずに恋してたって言うのもあるし」

「えー、そんなことある?」

「ありますよ。私もそうでしたし」

「え、咲ちゃんの恋バナ、気になる」


 いつの間にやら、会話は私の恋愛経験ではなく三谷さんの恋バナに移っていた。

 それに少しだけほっとする。

 正直、自分の昔の恋愛を語るのは得意じゃない。


「で、私サッカーしてる彼を見てドキドキしてるのを心臓発作かもって勘違いしてて~」

「心臓発作って!」

「だから、病院行かないといけないかもーって思ってたんですけど、行かなくて良かったですよ」

「行ってたら精神科送りだったかもね」


 ──心臓発作かぁ……。


 そういえば私もつい最近、心臓発作かもって思ったことがあったな、と記憶を辿る。


 ──あぁ、そうだ。


 昨日、店長とご飯を食べに行った帰りの事だ。


「アキちゃん? どうしたの?」

「わぁぁぁあ! 絶対に違う! 違うからぁ!」

「えっ、何が!?」


 考えに没頭するあまりに周りが見えなくなっていた私は三谷さんの声かけに思わず大きな声を出してしまった。

 他のお客さん達の視線が痛い。


「す、すみません。少し考え事をしていたので……」

「考え事? ……へぇ。なに考えてたの? 米倉さんの事?」

「へっ!? いやいやいや、ち、違いますから……っ」

「図星なんだね」

「違うって言ったのに!?」

「しろちゃんは嘘を吐かない方がいいよ。バレバレだから」


 店長といい如月さんといい、私はそんなに分かりやすいのだろうか……。

 いや、昔から分かりやすいと言われていたので分かりやすいらしいという自覚はある。

 でも最近は酷い。私の心を漏れなく読まれている感が半端ない。

 ポーカーフェイスを練習した方がいいのかも知れない……。


「で、何考えてたの?」

「う……いや、店長の事と言うか……」

「店長の事と言うか?」

「昨日、私も心臓発作かもって思ったなって思って……病院行き忘れてたって思って」


 その答えに、一如月さんも三谷さんもニヤリと笑った。


「そっかそっか。でもしろちゃん、行くなら占いの館の方がいいかもよ?」

「いい占いの館紹介するよ!」

「え、何でそうなるんですか!?」


 何故心臓発作かも、病院に行かなきゃっていう話が占いになるのか、訳が分からなかった。

 心臓病が治りますようにとでも祈祷しろと言うことなのだろうか?

 ……詐欺に引っ掛かりそうな気がしてならない。


「だから、しろちゃんは自分の気持ちに鈍感なんだって。私たちが言ってる意味の答えは自分の心にあるはずだよ」

「私の、心に……?」

「そう。何で見て見ぬフリをしているのか知らないけど、もう向き合った方がいいよ。自分の素直な気持ちに」

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