21.幼馴染み①
前回は仕事が押してしまったのでギリギリだったが、今回は仕事が定時に終わったので余裕だ。
私はしっかりと服装を考え、白い半袖シャツに青っぽいジーパン生地の上着を羽織り、下には上着と同じ色のジーパンを履いた。
髪の毛はヘアアイロンで真っ直ぐにして前髪をピンでとめるだけにした。
今回はフォーマルには向かないカジュアルスタイルだ。
というのも、どう考えても私はアオが連れていってくれたようなお洒落なお店は知らないし、五万円もする食事を奢ることも出来ない。
だから今回はB級グルメ的な店に行こう、というのが私の考えだった。
アオとの約束の十六時半きっかりに部屋を出ると、丁度アオの車がアパートの前に停まるのが見えた。
前回のみならず今回もということは、時間厳守な性格は変わっていないようだ。
私はきちんと鍵を掛けた事を確認してから、階段を降りてアオの元へ駆け寄った。
「こんにちは」
「おう」
アオも今回は前回とは違い、少しカジュアルな服装をしていた。
私の事情を良く分かっていらっしゃるようだと思うのと同時に、少し虚しくなった。
──もう少し、いい店に行くかもとか思ってほしかったな……。
私はそんな相反する思いを胸に抱えながらアオの車に乗り込んだ。
「さて、何処に行く?」
「道案内するから、その通りに走ってもらってもいい?」
「おーけーお嬢様。仰せのままに」
私が向かったのは、近所にある焼き鳥と釜飯の店。
前に開催された店の忘年会の時に来て、美味しいと感動した所だ。
本当は店長に連れて行って貰ったラーメン屋と悩んだんだけど、何となくやめておいた。
「おー、良さげな店じゃーん」
アオが車から降りながら店を見て言った。
「ここの釜飯、美味しいんだよ。庶民的で申し訳ないんだけど……」
「何で謝るの? 俺焼き鳥とか釜飯、大好きなんだよな! あー、楽しみっ!」
そう言って私を置いていく勢いでルンルンと店に向かって歩いていくアオを「待ってよ!」と慌てて追いかけた。
本当、自由な人だ。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」
「二人です」
「禁煙席と喫煙席、どちらがよろしいでしょうか?」
店員さんにそう聞かれ、私は念のためアオを見た。
アオから煙草の匂いはしないからいいだろうけど、もしかしてという可能性があるからだ。
「禁煙席で」
しかし、案の定アオは禁煙を選んだ。
それに何故かほっとしている私がいた。
タバコ嫌いなわけでも喫煙者に変な偏見を持っているわけでもないのだが(それを言うなら店長は喫煙者だし)、何とな~くアオにタバコを吸っていて欲しくなかった。
何故だかは分からないけど。
席に案内され、美味しそうな写真がずらりと並ぶメニューを開くと、私のお腹が小さく音をたてた。
「腹へった?」
「うん。滅茶苦茶」
「いっぱい食べて大きくなるんだよ」
「何それ。うちの店長みたいなこと言わないでよ」
私がそう言うと、アオは「ははっ」と乾いた笑い声を上げ、メニューを閉じた。
──アオ、もう決まったのかな……。
この間の焼き肉の時といい、アオはどうやら即決できるタイプのようだ。
対して私は料理選びに苦戦していた。
というのも、どれもこれも美味しそうで思わず悩んでしまう。
優柔不断な性格が恨めしい。
「アオ、何にするの?」
「んー、秋花はどれにするの?」
「私は……五目……いや、鶏釜飯にする!」
「俺は五目にしようかな」
「五目ね! それと、あと焼き鳥を……」
というわけで、私は鶏釜飯、アオは五目釜飯、それと焼き鳥を色々頼んだ。
「秋花、今日仕事だったんだよね? 大丈夫? 疲れてない?」
店員さんが去っていったあと、アオは私にそう聞いた。
「うん、大丈夫だよ。アオは休みだったの?」
「あぁ、天下の二連休だよ。そのあと七連勤だけど!」
「うわぁ、マジおつ」
暫くしてやって来た料理は全て艶やかな光を放ち、私の食欲をそそる。
「いただきますっ!」
「いただきます」
私は焼き鳥をひとつ、口にいれた。
「「うま~」」
同じく焼き鳥を食べたアオと思わずハモった。
少し遅れてやって来た釜飯の蓋を開けると、フワッと湯気が立ち上ぼり、いい香りが鼻腔を擽る。
「あー、秋花の鶏釜飯も旨そうだな」
アオが鶏釜飯を見てそう言った。
「ちょっと食べる?」
「いいのか?」
「勿論」
「じゃあ、俺のもやるよ」
私は鶏釜飯を半分、アオの茶碗によそい、アオは私の茶碗に五目釜飯を半分よそってくれた。
そこで私ははた、と気がついた。
──もしかしてアオ、私が五目か鶏かで悩んでたから五目にしてくれたのかな……?
考えてみれば、その前まで悩んでいたのに私にどうするかを聞いた直後に「五目にする」と決めていた。
──アオ……。
私は隠されたアオの優しさに感謝しながら五目釜飯を食べた。
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