16.初恋②
「懐かしいなぁ……」
私は思わずそうポツリと呟いた。
苦くて、甘酸っぱい、初恋の思い出。
あれもまた良い経験だったと今なら言える。
私は少し悩んだあと、そのアプリの自分のアカウントを開いた。
「Aki」と書かれた自分のアカウントから、「新谷葵」を検索してフォローを押した。
そして私はアオのページを開いて手紙のマークを押し、メッセージを書き込んだ。
>アオ、久しぶり。昔、一緒に小学校に通ってた城田秋花だよ。元気? 気が向いたらでいいから、良かったら連絡してね。 城田秋花
誤字や違和感などがないかを確認してから迷わずに送信ボタンを押す。
返事があるかどうか分からない。無いなら無いでいい。
ただの、気紛れなのだから。
きちんと送信されたのを確認し、私はスマホの画面を閉じた。
アオの呟きには職業や住んでいる所は書かれていなかった。
──アオ、今何してるんだろうなぁ……。昔野球好きだったから野球関係の仕事してたりして。
私はアオの現状と、昔の恋に想いを馳せた。
***
ヴーン、ヴーン。
「……ん?」
私はのっそりと目を開けた。
先程まで明るかった部屋はもう薄暗い闇に包まれていた。
どうやら寝転がっているうちに、うっかり眠ってしまったようだ。
寝ぼけ眼を擦りながら枕元にあったスマホを見ると、チカチカと青いランプが光っていた。
目を覚ます前に聞いたヴーンという音はきっと、この着信を報せるバイブレーションの音だったのだろう。
──如月さんか、三谷さんか……。
私は連絡をしてきそうな人の名前を思い浮かべながらスマホのロックを解除した。
しかし、メッセージの差出人は二人のどちらでもなかった。
>秋花、久しぶり! えっと……十年ぶりくらいかな? まさかこうしてまた巡り会うなんて思ってもなかったよ。俺は元気だよ。秋花は元気にしてた?
私はそのメッセージを見た瞬間に飛び起きた。
私の事をアキではなく、しっかりと「秋花」と呼ぶのは今のところ、一人しかいない。
──アオ、私のこと覚えててくれたんだ……!
返信をくれたことよりも何よりも、私はその事が嬉しくてすぐに返信をした。
>返信ありがとう! あの時十二歳だったから……十三年振りかな。本当に懐かしいね。私も元気だったよ!
そう返事をすると、また直ぐにスマホが鳴った。
>そんなに経つのか! ま、何にしても元気そうで良かった。秋花は今何してるの?
>私は今、お弁当屋さんで働いてるよ!アオは?
>お弁当屋さんかー。いいなぁ、腹へった(笑)俺は今、花屋で働いてる。
「お花屋さん……て」
>イメージに合わない仕事だな(笑)
>おい、失礼だぞ!(笑)
>だってぇ~
>秋花は今、独身?
>独身だよ。
>そっか。俺も独身! イケメンなのに何でだろうな……。
>変人だから?(笑)
>そうそう……って、おい!
幼馴染みとの久しぶりの会話は楽しくて、思わず弾む。
>そういえば、俺、花屋の仕事の関係で秋花が教えてくれた引っ越し先の近くに引っ越したんだよ。
>えっ、そうなの!? じゃあ、多分家近いね!
>マジか! 今度飯行かねぇ? お互いどうなったか気になるし。
>私はアオの写真見たけどね~。
>見んなよ!
>いや、理不尽!
>で、どうすんの?飯。
>奢ってくれる?(笑)
>じゃ、コンビニのおにぎり一個でいい?
>せめてうちの店長を越えてよ(汗)
>何個?
>十個。
>多くね!?
>残りは他のスタッフが美味しく戴きました。
>だろうな(笑)
そんな下らない冗談を言い合いながらもやり取りを続け、結局明日の夕方、二人でご飯に行くことになった。
>じゃあ、また明日な。
>三歩歩いたらその約束忘れるかも知れないけど、おっけー?
>お前は鶏かよ(汗)俺は仕事に戻るぞ。
>じゃ、明日ねー! 仕事頑張ってー。
そこでメッセージは途切れた。
私はスマホをポイっと机の上に放り、またベッドに寝転がって天井を見つめた。
まさか、こうして十三年前まで好きだった幼馴染みとまた縁が繋がるなんて思いもしなかった。
まぁ、久し振りに恋をしたところで初恋を思い出すというのもまた良いだろう。
それに、アオとは積もる話もある。思い出話に花を添えるのも良い。
それに、文面上では変わっていないようだが、現実ではどうなのかが気になるし、写真では背丈などは分からない。
確か彼のお父さんは大きかったはずだから、もしかしたら滅茶苦茶大きくなっているかも知れない。
──アオとの再会……か。楽しみだな。
私は明日の幼馴染みとの再会に胸を弾ませた。
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