38.分からないの。③
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結論からいうと、私の久しぶりの夕勤は散々な結果で終わった。
昼勤とは違って「ディナーメニュー」なるものがあるのだけれどそのメニューがレジのどこにあるのか分からなかったり、間違えてランチを押したり。
盛り付けとかも全然違うので厨房に入ることも出来ず、結局カウンターでレジをしているしかなくて……という悪循環。
「なぁ、姉ちゃん新人か? 初々しくて可愛いな~。どう、このあと飯でも……」
昼勤とは全く違うお客さんの流れというのもあり、半分混乱しはじめていた私を、今度は軟派という悲劇が襲った。
──もうやだ。夕勤怖い。帰りたい。
そんな私をフォローし、軟派から助けてくれたのは何と堀田さんではなく、北川くんだった。
「……そういうことはキャバクラでやってください」
金髪で仕事中でもピアス大量に付けている(違反)不良くんこと北川くんに睨まれると、軟派男はいとも簡単に退散した。
「北川くん、ありがとう」
私がお礼を言うと、北川くんは
「ディナー、間違えなくなりましたね」
とだけ言ってさっさと厨房に戻っていってしまった。
店長はそれを「ぶっきらぼうだ」とか「生意気だ」とか言っていたけれど、この数時間でそれは北川くんなりの優しさと照れ隠しだということを知った。
──北川くんって、本当はそんなに悪い子じゃないのかもな……。
ねこねこにゃあご、なんていう可愛いキャラが好きなくらいだし。
何て思いながら閉店作業をしていたら、突然「……城田さん」と背後から声を掛けられ、私は驚きのあまり「んにひゃあっ!」と言う変な悲鳴とともにコインカウンターを落としてしまった。
静かな店内にカコォォン!という音が盛大に響く。
「……何してんの」
「ご、ごめん」
北川くんは何やらブツブツと言いながらもコインカウンターを拾って手渡してくれる。
こういうところとかはほんと優しい子だ。
「……今日、城田さん、ミスばっかだったな」
「うっ」
しかし痛いところを突かれ、私は思わず呻き声を上げた。
「それを俺が全部フォローしたんだよな」
「う……うん……」
何だか恩着せがましい言い方だな、とは思ったものの、紛れもない事実なので反論できるはずもなく。
この状況で私が出来るのは、甲羅に隠れようとする亀の如く縮こまることだけだった。
「……なんで」
「はい……」
「何か飯、奢って」
「……はい?」
「助けたんだから、その報酬くらいはくれてもいいでしょ?」
「……はぁぁ!?」
前言撤回。
やっぱり北川くんは、優しくないのかも知れない。
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そんなこんなで、私は北川くんと共に店の近所のファミレスに来ていた。
「ステーキセット……和風ソース……と、フライドポテト……あ、あと唐揚げ……」
目の前に座る北川くんは遠慮なく次々と店員さんにオーダーを告げていく。
人のお金を一体何だと思っているのだろう……。
「あと、食後にショートケーキ……」
「……はぁ」
私も諦めて店員さんにミートパスタと烏龍茶を注文し、メニューを閉じた。
「……で」
注文を取り終えた店員さんが去っていくのを見送って少しした頃、北川くんが静かに口を開いた。
「ん?」
「城田さんって、店長好きなんだよな」
「んなっ!?」
北川くんの唐突な発言に、私はうっかりガタンっと椅子を揺らした。これじゃ反応で肯定しているようなものだ。
「……マジ分かりやすい」
案の定、北川くんにそう笑われてしまった。
あ、北川くんって笑うんだ……って、そうじゃなくて!
「……っ、なんで……」
「だから分かりやすいんだって」
一体この台詞をこの一ヶ月で何回言われただろうか。
あまり関わらない堀田さんと兎に角真っ直ぐ突き進んでいくだけの西村さん以外、全員に言われているような気がする。
「……それだったら、何?」
「何って言うか……」
「お待たせしました。ミートパスタでございます」
北川くんが何かを言いかけたところで、タイミング悪く私のミートパスタが来てしまった。
「あ、はい」
私の目の前にパスタが置かれる。
とてもいい香りがするそのパスタを、北川くんが「……わ」と変なものを見るような目で見た。
「? どうしたの?」
「……いや」
「もしかして、一口欲しいとか?」
「ぜってぇいらねぇ!」
それだけで充分だった。
「分かった。北川くん、トマト嫌いなんだ」
「な……っ、そ、そんなんじゃねぇし!!」
「隠さなくていいのに~」
「うっせ!!」
北川くんはそう言ってプイとそっぽを向いてしまった。しかしその横顔が真っ赤に染まっていた。
まるで子供みたいだ。
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