12.この気持ちは何?④

「すみません、お客様方」


 私は耐えきれずに女の子達と店長の会話に割って入った。


「え、何?」


 それに、女の子達はいかにも不快そうに眉を顰めた。

 ほら、これがこの子の本当の姿。

 さっきみたいに可愛らしくコテッと首を傾げたりなんかしない。

 やっぱりぶりッ子なんだよ。


「他のお客様のご迷惑となりますので、やるなら外でやっていただくか、お帰り頂けますようお願い申し上げます」


 私の言葉に気を悪くしたのか、女の子たちの顔に敵意が滲み出る。


「何で?あなたには関係なくない?」

「一応ここのスタッフですので。このお店に来られるお客様全員に気持ちよくお買い物をして頂けるようにするのも私の役目です」

「はぁ?」


 敵意を隠そうともしない二人に対して、私は最上の笑みを浮かべた。

 笑顔の圧というやつだ。


 三人の間にピシ……ッと言う亀裂が入る音がしたところで、

「そ。ということで、ごめんね?それに、俺ご飯に行くとか苦手だから、もう誘わないで欲しいな」

と店長が割って入った。


 それに一番驚いたのは私だ。

 店長は女の子達の味方をするものだと思っていたし、ご飯に行くのが苦手とか初耳だ。

 私と行くぐらいだし、そういうの好きなのだと思っていた。


 そんな私の内心はさておき、女の子達は店長の言葉にショックを受けたようで、さっきまでの威勢は何処へやら、「ごめんなさい……」と小さく謝って店を出ていった。


「ふぅ……」


 平穏が戻った店内に店長のため息が響く。

 私はそれに、頭を下げた。


「すみませんでした」

「え? 何が?」

「店長、本当は行きたかったんじゃないですか? あの子達とご飯。なのに私が邪魔をしたから……」

「え? いや、俺元から行く気なかったし、逆に助かったよ」


 ──そうなんだ……。


 頭の中ではそう納得し、安心した。

 それなのに、口が勝手に嫌味を漏らす。


「あんな可愛い子達だったのに? 店長、あんな風に女の子らしくて可愛い子がタイプじゃなかったでしたっけ?」

「それは……ていうか、何か城田さん怒ってる?」

「怒ってません」


 そう、怒ってなどいない。それに、怒るような事も無かった。

 それなのに……何だろう、このモヤモヤとするものは。

 モヤモヤの正体が分からないのが更にモヤモヤに変わり、そのうち段々イライラしてきた。


 このままではちゃんと接客なんて出来そうにもないので私は

「またこういうことがあるといけないので、カウンター、三谷さんに代わって貰いますね。ピークも終わりましたし」

と言って厨房に入った。


 後ろから「城田さん!」と呼ぶ店長の声が聞こえたけど、無視をした。

 お客様がご来店されたのもあり、店長が後を追ってくることもなかった。


「しろちゃん……どうしたの?」


 私たちの様子を小窓から見守っていたらしい如月さんと三谷さんが心配そうに私を見る。


「何でもないですよ。ただ……」


 私はそこまで言って、言葉を切った。

 何でこんなにイライラするのか、私にも分かっていないからだ。


「……すみません、三谷さん。カウンター、代わってもらってもいいですか」

「あ、うん。いいけど……大丈夫?」

「大丈夫です。仕事は出来ます」


 私は三谷さんが入っていた焼き物ポジションに入った。

 焼き物ポジションというのは、炒め物系の注文が入った際にフライパンを振る人のことだ。


「回鍋肉弁当一丁~!」


 先程入ってきたお客様の注文を私の代わりに取った店長の声が聞こえた。

 私は肉と野菜、タレを用意し、回鍋肉を無心で作り始める。


「しろちゃん」


 中華鍋に油を回していると、ご飯をよそう如月さんが声を掛けてきた。

 

「何でしょう」

「さっきの女の子達の事が気に入らなかった?」

「……お客様に迷惑を掛けるような行為をするような方は嫌いです」

「そう。……だけど、それだけじゃなんじゃない?」


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