11.この気持ちは何?③

 店内に戻ると、如月さんが出勤してきていた。

 如月さんは三谷さんから事のあらさましを聞いたのか何なのか、私を見るなり「あ、店長の彼女様のお帰りだ」とからかった。


「き、如月さん!」

「違うよ」


 それを店長が冷静に否定をしたので、私のテンションは一気に地獄まで落ちた。

 

 ──いや、何で落ち込んだ、自分?


 そんなの、どうだっていい話の筈なのに──……。


「秋花ちゃんは彼女様じゃなくて奥様だよ」

「いや、否定する場所おかしい!!」

「え? 昨日入籍したんじゃん?」

「そんな覚え、私にはございませんが?」

「そりゃそうだよ。ベロッベロに酔っぱらってたもん」

「私、お酒飲めません! ダウト!!」

「バレたか」



 そんなこんなで店長の謎の嘘により店長の香りとか腕の感触とか(以下略)を忘れられた私は、いつも通りに仕事をこなす。

 それは、そんな中の出来事だった。


 13時頃。


「いらっしゃいませ~!」

「ねぇねぇ、ここだよね?」

「うん、ネットで見たのここだよ!」


 恐らく二十代前半の女性のお客様二人が来店された。

 ネットでお弁当を見て来店してくれたのだろうか、などと思っていると。


「あのー、すみません。店長さんいらっしゃいますか?」

と訊ねられた。


「店長……ですか?」

「はいっ!」


 ……どうやら、お弁当目的ではないようだ。

 だけど、だからといって無下にすることも出来ないので私は「少々お待ちください」と言って事務所に向かった。


「店長~、何かお客様がお呼びですが……」

「は?俺を?何で?」


 よりにもよって店長の御機嫌は宜しくないようだ。

 まぁ多分、大方「クレームじゃねぇの?」とか思っているのだろう。


「店長さんいますかって聞かれまして……何かネットで見てきたそうですよ」

「ネット?」

「はい」

「……どの人?」


 私は店長と共にカウンターに戻り、店長に「あの方達です」と紹介をしようとした。


だが、その前に女の子達が私たちに気付き、そして

「きゃーーーっ!!」と黄色い悲鳴を上げた。


「お呼びでしょうか?」


 店長のその一言に、女の子達は顔を赤らめた。


「声もイケボ!!」

「ていうか本当にイケメン!ヤバッ!!」


 その反応と言葉で、私も、そしてきっと店長も女の子達の目的を理解した。


 ──店長狙い、か……。


 ネットで見た、というのはきっと先日出した求人ネットに店長の写真が載っていたのを見たのだろう。

 店長は性格的な問題さえなければ高身長イケメンなわけだし、おかしな話ではない。


 店長はあっという間に両手に花状態になった。


「あのぅ、お名前、何て言うんですかぁ?」

「米倉といいます」

「彼女はいるんですか?」

「いないですね。募集中です」


 女の子達の質問攻めに、店長は満更でもない様子で答えていく。


 対して、私の中にはイライラが募る。

 何故イライラしているのかはわからない。

 でも、イライラする。


 ──……何さ。さっきまで期限悪かったくせに、デレデレしちゃって。


「あのー、良かったらお仕事の後、一緒にご飯に行きませんかぁ?」


 女の子が店長をご飯に誘う。

 首をコテッと傾げる仕草がわざとらしい。

わざとらしすぎて見ていて腹が立つ。


 それに嬉しそうに笑顔を向けている店長も店長だ。

 あんなの、かわい子ぶってるだけに決まってるのにそれを見抜けていないとか、見る目がなさすぎる。


 ていうかその子達はさっきから店長の顔だけ・・しか見ていない。

 そんな人には店長の悪い面はもちろん、良さも分からないだろう。

 そんな女とは付き合わない方がいいに決まっている。


 イライラが段々とモヤモヤと訳の分からない気持ちに変わっていく。

 そのモヤモヤは形を崩していき、私の精神を乱す。


 モヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤ……。


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