7..こんなの恋なんかじゃない②
仕事終わり。
「しろちゃん、今日はご飯どうするの?」
私が帰り支度をしていると、如月さんが尋ねてきた。
今日のご飯はというと……あれなんだよな。
「今日は外食を……」
「へぇ、珍しい。誰かと食べに行くの?」
「あ、はい。店長と……」
私は厨房で堀田さんと話す店長の姿をチラリと見た。
少し待たなければならないようだ。
「へぇぇぇ?」
「な、何ですかその意味深な笑みは?」
「いやぁ、デートなんだなぁと思って」
「デ……ッ!?ち、違います!違いますから!」
私は両手をブンブンと振って否定をした。
デートなんて、大それたものじゃない。
「えー、でも二人なんでしょ?」
「そ、そうですけど……でも、デートなんかじゃないですから!ただのお食事で……っ!」
「ふぅーん?へぇー、そう」
如月さんは私の否定なんか意味ないとばかりにニヨニヨと笑う。
どうして如月さんはこうも私と店長をくっつけだかるのだろう。
「ま、頑張りなよ、しろちゃん」
「ファイト!アキちゃん!!」
謎の激励を残して如月さんと三谷さんが帰ったところで、話を終えたらしき店長が事務所にやって来た。
「あれ、二人とももう帰ったの?」
「え、あ、はい」
「そっか。一緒にどうって言おうと思ったのに、タイミング逃しちゃったな」
……ほらね。店長だってデートだなんて微塵も思ってない。
ただのバイトとの食事会にしか過ぎないのだ。
「言っておいてもらえたら私から聞きましたのに」
「ま、いいか。城田さんと二人の方が気を遣わなくていいし。じゃ、何食べにいく?」
「店長は何がいいんですか?」
「俺?俺は城田さんが食べたいものがいいな。ていうかぶっちゃけ、城田さんとなら何処でもいいや」
それなのに、その言い方は……ある意味酷い。
私の心臓は一気に心拍数を上げる。
でも、これはきっと恋なんかじゃない。
こんなことを言われたら誰だってこうなると思う。
そう。私が店長を好きになるわけないのだから。
「……ラーメンが食べたいです」
「お、いいね!俺もラーメン大好き。何ラーがいいとかある?」
「いえ、ラーメンなら何でも」
「じゃあ、おすすめの店あるんだ。そことかどう?めっちゃ旨いから城田さんにも食べてもらいたいんだ」
「じゃ、じゃあそこで……」
店長だって絶対に社交辞令で言っているだけだ。
さっきの如月さんと三谷さんを誘えなかった発言を掻き消すために決まってる。
私はそう自分に言い聞かせて、煩い心臓を静めようと左胸に手を当てた。
店を出て、店長のクラウンに乗り込む。
免許なし、お金なし、愛車が十年物の自転車の私には高値の花的存在、クラウン。
乗るだけで凄く緊張する……!
「何でそんなに縮こまってんの、城田さん」
「だ、だって私、こんな高級車に乗った事なくて……!」
「あはは。緊張せずに、軽だと思って……」
「軽とは程遠い存在すぎて無理です!!」
ていうか店長はこのこぢんまりとした弁当屋の店長だよな?
何でこんな高級車に乗っているのか……謎過ぎる。
「俺、昔株やってたんだよね。これはその時に稼いだ金で買った車だよ」
「エスパー!?」
「城田さん、よく分かりやすいって言われない?全部顔に書いてあったけど」
「はぅ」
店長の言われた事は今まで何十回と言われてきた事だった。
私って、そんなに分かりやすいのか……。
そして株でクラウン代稼ぐとか、うちの店長は何処までハイスペックなんだろうか。
私と店長じゃ軽とクラウン位の差があるんじゃないかと思えてきた。例え分かりづらいけど。
「着いたよ」
私が変なことを考えている間に、車は小さな駐車場に停まっていた。
そこは、とても小さな豚骨ラーメン専門店だった。
「私、豚骨ラーメン大好きです!」
「良かった。じゃ、行こうか」
店長の後に付いて店内に入ると「お客さまご来店です!」「へい!らっしゃい!!」と言う元気な声に迎えられた。
L字型のカウンター席十席ほどにテーブル席二席の店内は夕方十六時過ぎと変な時間なのにも関わらずお客さんがいっぱいだ。
勿論、たった二席のテーブル席なんて空いているわけもなく、私たちは当然のようにカウンター席に案内されたわけだけれども。
──ま、待って!カウンターってこんなに隣同士、近かったっけ!?
左隣に座る店長と肩が触れ合いそうなくらい隣同士が近い。
「城田さん、何食べる?」
そうメニューを差し出してくる店長の息が少しだけ首筋にかかる。
こんなの、メニューどころではない。
「い、一番オーソドックスな物で!」
「じゃ、この白ラーメンでいい?」
「はい!それで!!」
私は適当に商品を選び、右隣にある壁に肩を凭れ掛けさせた。
店長が右側、譲ってくれて良かった……。
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