6
午後6時の10分前に、沙月は病院に到着した。
外来の受付はすでに終了していて、受付の窓は閉まっていたけれど、沙月はロビーで雑誌の片付けをしていたナースに声をかけた。
「すみません。408号室の片岡さんのお見舞いに来たんですけれど」
ナースは自身の腕時計をチラと見てから「6時までですよ」とめんどくさそうに来客用のノートと、病室への簡単な道案内をしてくれた。
なんだか緊張する……。
病室は個室らしく、ドアの「408」の下に「片岡」と手書きの表があった。
上枝さんを連れてきた方がよかったかな?
隣には例のゴーレムはいる。しかし、彼は当てにはならないだろう。ただ自分の後ろに黙ってついてくるだけ。それに、他の人には見えないもの。
コンコン、と控えめにノックをする。しかし、返事はない。はたして可奈はいるのだろうか。もう一度、今度は少しだけ強くドアをノックした。すると「……はい」と返事が帰って来た。
可奈のお母さんの声ではない。もっと若い、沙月たちと同じくらいの女の子の声。きっと可奈だ。しばらく聞いていないけれど、彼女の声に違いない。
沙月は意を決してドアを開けた。ツンと、薬の匂いがする。
室内は暗かった。電気も着けておらず、慣れるのに少しだけ時間がかかった。6畳ほどの広さに、窓際にベッドが1台。そして、そのベッドの前のパイプ椅子に座る、ひとりの少女。
「可奈……?」
少女の髪の毛は金色で、少しだけパーマを当てているようだった。沙月はドキリとした。噂は本当なのかしら、と。
しかしその少女は、沙月に向かってこう言ったのだ。
「あの、誰ですか?」
「え?」
目が慣れてきた。
そこでようやく、椅子に座ったままこちらに振り向いている少女と目が合っていることに気がついた。そして――椅子に座るその少女が、可奈ではないことにも。
確かに可奈に似ている。タレ目の具合や、口元も。でも、それは金髪のせいだと始めは思った。すこしポッチャリしているのも、きっと何か事情があったからだと思った。
でも違う。目の前の少女は可奈ではない。
なら、いったい誰?
暗い病室にひとりだった。ベッドには誰も寝ていない。起き上がった後のように、掛け布団が捲れあがってはいるけれども。
少女は不振な目付きで、こちらをジッと見つめている。何か言わないと……でも声が出ない。そうしていると、少女の顔が突然パッと明るくなった。
「もしかして、涼森れいなの娘さん!?」
その声には、今までの敵意は一切なく、むしろある種の歓喜の色が混じっていた。おかげで形勢逆転だ。今度は沙月が一歩引いてしまった。
「テンション上がる! 確かに似てるかも!」
天井に頭がつくくらいの勢いで、少女は椅子から飛び上がると、沙月のもとへと文字通り一直線にやってきた。
近くで見ると、やはり似ているだけだ。背丈だって可奈より低い。
「私、大ファンなんです! 『バンソウコウ』ってドラマあるじゃないですか?」
「え? あの、お母さんがガンになっちゃうお話?」
「そう! あの時の涼森れいなさんがほんっとに可愛くって、ちょっと不良っぽい感じにも憧れて、私も金髪にしたんです」
彼女は自分の前髪をちょんちょんと撫でてみせた。金色というより、ブリーチを重ねて色が抜けた黄緑色に近い。くわえて真っ赤なリップに、濃すぎるマスカラ。なるほど、確かに不良生徒だ。
「えっと……私は
「知ってます、知ってます。私、可奈姉の従妹なんです!」
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