「ぽたりぽたり……」


 点滴の落ちる音がする。


「ぴこんぴこん……」


 器具たちが鳴る。

 暗い病室の中で聞こえてくるものといえば、あとは――


「すやすやと寝息を立てまして、遠い遠い夢の中~~ 私の知らない夢の中で~~ お母さんは何をしているの~~? ちゃんと私を覚えてる?」


 ベッドで眠る母の顔を見つめて、彼女は声を高くして唄う。その表情は、決して楽しいものではない。今にも泣き出しそうな、くしゃくしゃな顔だった。


「早く起きてくれないと、私も遠くにいっちゃうよ~~? 叱ってくれるのはお母さんだけ。こんなに悪い娘なんだから~~」


 あってないような校則のおかげで、彼女の学校のクラスにひとりは、髪が明るくてパーマもかけていて、派手なメイクとパンツが見えそうなくらいスカートを短くする生徒がいる。度が過ぎるとさすがに注意されることはあるけれど、生徒たちの自主性を重んじる姿勢で、大抵はお咎め無しだ。


 だけど、金髪ならどうでしょう?

 座ると本当にパンツが見えちゃう。

 高校生だから、オトナは私をジロジロ見てくるのよ。いっぱい声を掛けられて、お尻も触られたんだから。


 気がつけば大粒の涙がポツリ。嗚咽のせいで、続きが歌えない。


 早く起きてよ、お母さん!

 

 自動空調の風が強くなって、ゴオオオ、と大きな音を立てた。

 明日からは夏休みだ。高校生にとっては、一年でいちばんの大イベント。


 うるさい病室の中で、少女の鳴き声が大きくなっていく。


 私、何やってるんだろう?

 お母さん……誰か、助けてよ!!




(第四章へつづく――)

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