4
部屋着から着替えた沙月は、孝太と一緒に外に出た。
雨はすっかり止んでいて、土の地面に水溜まりは残しつつ、虫たちの鳴き声や遠くに見える
「ねぇ? お店の中で良かったんじゃない?」
重たそうなバックパックを背負う孝太が弱音を吐く。ハンカチで何度も汗を拭いているらしく、パタパタとうちわ代わりに扇いでいた。
「ダメです。これは買い出しのついで、です」
「ついで、か……」
「はい。ついで、です」
そうだ。これはあくまでも喫茶パンチャの買い出しに、たまたま孝太が着いてきただけなのだ。たまたま取材が終わって、たまたま帰り道が同じ方向だったから。
「俺、車で来てるんだけどなぁ」
「え? 孝太さんは会って間もない女子高生を車に乗せたりするんですか?」
敢えて無邪気に言い放つ。昨日今日で沙月の心は、イライラで風船のように膨れ上がっていた。孝太だけじゃないのだけれど、最後に針でつついて破裂させたのは彼なのだから、溜まったイライラが全部彼に向かって吹き出していた。
「それに、重たい買い物袋を、私ひとりで運ばせようと思っていたんですか?」
孝太は困ったような顔をして見せた。良い気味だ。
「沙月ちゃんは怖い子だ……」
いつも買い出しに行くスーパーは、パンチャがある商店街を抜けたすこし先にあった。広い駐車場と田んぼに囲まれ、このあたりではいちばんの大型店だ。いつもなら自転車に乗っていくのに、今日は歩いていく。
雨上がりの外は、湿気も含んで蒸し暑い。
着替えた服が悪かったのかしら?
シーブルーのサマーニットに、オフホワイトのハイウエストのタイトスカート。沙月だってうっすらと汗ばんでいた。しかし、妙な意地もあって、澄まし顔を守っている。
「今日はえらく大人っぽくて、お洒落さんだね」
きっとご機嫌取りの言葉でも、沙月は素直にドキリとした。
先日、ショッピングモールで一目惚れして買ったお気に入りが、たまたま引き出しのいちばん上にあったからだ、と心の中で言い訳をする。
そういえば、あの時は可奈と一緒に買い物に行ったっけ?
買い物を終えると、二人は来た道を引き返した。もちろん、荷物は孝太が持っていた。
西日がちょうど顔に当たる。店内の冷房が効いていたせいか、すでに汗はひいていて肌寒いくらいだった。おもしろいのは、孝太への怒りも一緒に収まっていたこと。すっかり鎮火していたのだ。
代わりに、気持ちの悪い燃えかすだけが残った。
今着ている服は、可奈と一緒に買ったものだ。その時、似合ってると誉めて、笑顔で背中を押してくれた彼女の顔が頭の中を
死んだ母のこと。可奈のこと。それからゴーレムのこと。もうすぐで夏休みなのに、自分はいったい何をやっているのか。
ふぅ、と息を吐いても飛んでいかない
どうすれば良い? まず、何をすべきなのか。
商店街に入ったところで、沙月は足を止めた。前を歩く孝太も気づいて、「どうしたの?」と聞いてくれた。
進むべき道は明らかだった。
色んなことが重なって見えなかっただけ。
「孝太さん、実は私――」
沙月は、ようやく孝太に打ち明けることができた。
――ゴーレムに会いたい。会って母のことを聞いてみたい。
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