第24歩 教官 ヨシカゲ=タンバ

 魔物との連戦を終えて休憩を挟んだ後、僕たちは自身の役割に沿った特訓を其々それぞれ行うことになった。

 僕は数十分くらいぶっ通しで先生を相手に小太刀の立ち回りの見直し。


 タンバ先生はガレリアのある【グレンシア大陸】の極東に位置する島国出身で、刀や小太刀といった出身国産の武器の扱いは一流だ。


 現在は現役を退いて教育セクトの教官を務めているけど、シードル新界開拓者時代はその武器の扱いで右に出る者はいなかったらしい。

 しかも、先生と同郷のシードルも一定数はいるのにも関わらずだ。


 あとは、多く流通している剣やダガー、短弓なんかも軽々扱うし、武器以外も武器にできる発想力と戦場慣れは桁違いだって聞いた。

 それでいて、魔物も呼び出せちゃうんだから。

 もう何て言っていいのか…。


 羨ましい? 格好いい?

 うーん…。よくわからない。


 戦闘スタイルとしては一対一や遊撃を中心に、時には前衛もこなせるオールラウンダー。

 つまり、何でも屋。何でもできる屋。


 ちょっと嫉妬が入っちゃたから、やっぱり僕は先生のことを羨ましいし格好いいと思っているだと思う。

 いつもはテキトーなくせに…。


 そんなことが、疲れ切ってもう一歩も動けなくなってへたり込んだ僕の頭の中をぐるぐるぐるぐる。

 先生はそんな僕の肩を叩いて「精進精進」と笑いながら繰り返した。


 ニコルは僕と先生とは別にバーダントパードを相手に捕まらないように立ち回る特訓。


 闇魔法やみまほうの魔物召喚とは凄いもので、人界じんかいの魔力を濃く込めた魔石を利用することで、より詳細な命令を魔物に従わせることができるらしい。

 先程からバーダントパードの攻撃がニコルに当たる度にバーダントパードは所定の位置まで戻っているし、一撃を当てるまではニコルを追い続けている。


 ニコルはバーダントパードの攻撃をククリで捌いて傷を負うことはないものの、所定の位置へと戻るバーダントパードを見て珍しく地団駄を踏んでいた。

 なんか、良いものを見た気がする…。


 ザックはニコルへと狙い定めたバーダントパードを自身へと引き付ける特訓みたい。

 でも、五島に生息するレベルの俊敏な個体で尚且つタンバ先生の指示に従順なバーダントパードに四苦八苦している様子。


 ニコルとバーダントパードの間に入ってニコルを守るも、先程とは打って変わってすんなりと抜けられてしまい。

 結果として、ニコルとバーダントパードの追いかけっこをザックが追いかける構図が続いていた。


 タンバ先生は、いつもは飄々ひょうひょうとしていて自由気ままな放任主義といった性格に見えるが、いざ教育となると全くそんなことはなく。

 しっかりと見てくれるので僕たちは信頼しているけど、やっぱり付いて行けなくて教育期間中には数人の脱落者も実際に出ていたくらい。


 だから、今度は全員が満身創痍にされてしまった三人は、樹の木陰で一言もなく死んだように休憩しているのだった。


「今日はここまでだ。といってもこれ以上やれそうな奴はいないわな」


 タンバ先生はそう言って笑うと、訓練の最後に四島探索に向けた総評を贈ってくれた。


 総評の内容は、


 『連携自体は悪くない。四島探索中に個々で経験を積んで頭で考えなくても最適で動けるように、連携や自分の動き方を身体に染み込ませろ』


 と、そんな感じ。


 今までの探索では三人の連携に重きを置くことが多かったので、個人の能力を引き出していく次のステップに入ったような感じがして、僕は嬉しかった。


「タンバ先生…質問が…」

「なんだ?」


「魔力の、管理のことで…」


 疲労で息も途切れ途切れにニコルがした質問に先生が答える。


 先生の魔力量は、先程の通り人界でも闇魔法を高いレベルで操ることができ、生徒に魔物戦を実践させることができる程度は余裕みたい。


 でも、これでも攻略部隊所属の一流シードルの中では低い方だと言うのだから、最早もはや僕には訳がわからない世界なんだと実感する。


 タンバ先生は魔石と自身の影や土を媒介ばいかいに魔石の生前の持ち主と同種の魔物を生成できる。


 生成した魔物の色は全て黒色なので、先程のバーダントベアとバーダントパードも黒色だった。

 実際には、バーダントベアは人界の熊と、バーダントパードは豹と同様の色をしているらしい。


 そんな一流シードルの中では魔力量の低いと言われる先生が、最前線で数時間もぶっ続けで最上級の魔物を召喚して戦い続けるのはやはり困難らしく、どのように魔力を管理していたかを細かに説明してくれた。


 先生の説明をニコルとザックは時々頷きながら聴いていたけど、僕には最初から最後までさっぱりで。

 魔法が使えるようになったらと考えると…眩暈がしてきた。

 まぁそれでも、魔法は使えるようになりたいんだけど……。


 タンバ先生の説明が終わってからも動けるようになるまで木陰で休憩を取らせてもらった三人は、先生にお礼を言ってから訓練場を後にした。


 そして各自着替えを終えた後、三人は食事しながらの今後の打合せをする為に、ねこのしっぽ亭へ直行した。


 ねこのしっぽ亭への道すがら、ソラに聞こえない程の小さな声で。


「なぁ、ニコル」

「なに?」


「そう言えば、バーダントパードとの初戦。耐久戦を選んでたが…ソラは心配じゃなかったのか?」


「ふふっ。ザックって案外、友達思いよね」

「お前なぁ」


「ソラならあれくらいは持ち堪えられるって分かってたから。でも、結局その後に怪我しちゃったけれどね」

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