日常:嵐の前の…
第23歩 戦闘終了
「……よ、風の精霊よ、この者に祝福を」
ニコルのものらしき
ふっと意識が軽くなった僕は、ゆっくりと目を開けた。
そして、上半身を起こそうとする僕を、傍にいたニコルが支えてくれた。
「ソラ、私がわかる?」
「ニコル。大丈夫。ありがとう」
「うん。良かった。大丈夫そう」
「ニコルー。ソラはどうだ?」
「大丈夫みたい」
ザックの声がした方を見ると、僕からは少し離れたところで倒れているバーダントベアの背中の斬り傷へと刺し込まれた剣の
そして、バーダントベアだけが魔石と共に灰となった。
ザックと自分の位置の間に、腰の位置まではあろうかという不自然な土砂の隆起があるのが目に入る。
僕は「ああ」と口にすると、
「ザック、ありがとう!」
と、やっと力の入るようになった腹筋に力を込めて大きな声でお礼を言った。
たぶん。いや、間違いなく。
この土砂の隆起はザックが土魔法で僕へのバーダントベアの追撃を防いでくれたものだろう。
ザックは剣の柄頭に乗せていた腕を上げると、良いよと言うようにひらひらと手を振った。
土魔法で助けてくれたザックにお礼を言った後、風魔法で回復をしてくれたニコルにも再度お礼の言葉を伝えたところで、タンバ先生から一旦これで休憩に入れと言われた。
タンバ先生も含む僕たち四人は、訓練時に魔物が生み出された樹の木陰で休憩を取ることに。
「ソラ、ふらつく感じはない?」
休憩に入って少し経ってから、皆の前でニコルからもう一度大丈夫か訊かれた。
僕はとっさに、
「大丈夫。でも、バーダントベアを蹴って薙ぎの衝撃を減らそうとしてたんだけどね。しっかり貰っちゃった」
と、言い訳も付け加えて苦笑した。
「ソラ。衝撃を減らしたとかどうとかは知らんが、ありゃ最悪手だ」
僕の発言に対する背後からの声にビクっとなって、強制的に先生の方に振り向き姿勢を正された僕は、すみませんでしたと頭を下げた。
それでもタンバ先生のお叱りは止まらない。
「無理して自滅するような攻撃はダメだと今日まで何度も伝えてきたつもりなんだがな。お前は今まで俺の話を聞いてなかったのか?」
「……」
「攻防両方の間合いの感覚や耐久性も
「……」
タンバ先生の目を見る勇気がなくて、頭を上げることができず。
頭を下げたままお叱りを受ける僕。
「小太刀も足を止めて受ける為に渡した訳じゃない。動きの中で使え。」
「……」
「ちゃんと聞いてるか?」
「は、はいっ。聴いてますっ!」
普段は
怒ると、怖い……。
僕は自分でも
「次にニコル」
「はい」
僕とは違い、タンバ先生の指摘に冷静に対応するニコル。
ニコルへの先生の指摘内容を要約すると、『魔力に頼りすぎ。連戦では魔力管理も大切な要因の一つ。例えば、一本目の矢は込める魔力の量が過剰。飛翔中の
最初は冷静に対応していたニコルも、的確な指摘に後半は少し
ザックにおいては、今回は及第点とのこと。
確かに、僕が戦闘を思い返してみても今日のザックは冴えていたし、指摘されるようなミスもなかったように思う。
たぶん及第点となったのも、訓練前の余計な一言のせいな気が…。
「最後に。これは三人全員に言えることだ」
タンバ先生は僕たち三人それぞれの指摘を終えた後、そう切り出した。
「お前らは何で初戦のバーダントベア戦だけで終わりだと思った?」
「……」
先生の質問に三人とも数秒間黙ってしまっていたが、ザックが口を開いた。
「ここが
「俺がいるのにか?そして、実際に魔物が現れた訳だが、」
歯切れの悪いザックの回答にすぐさま質問を被せる先生。
先生のこの質問は御もっともであり、三人とも口を
「人界では魔物は現れない。それにすら例外はある。常識なんてモノ、先人の知識なんてモノは簡単に引っ繰り返してくるのが
先生はそう言って一息置くと、
「新界に絶対は無い。それだけは必ず覚えとけ」
と、最後の言葉に今日の中で一番語気を強め、
「特に、全く予想できていなかったソラ以外の二人」
という言葉で締めくくって僕達への指摘と指導を終えた。と僕は思った。
ソラ以外の二人と言われてザックとニコルが「はい」と返事をする中、僕は内心気を抜いてしまい、ほっと一息。
それに気付かれたのか、
「あと、ソラ」
と、先生に名前を呼ばれると、
「お前はバーダントベアとの二戦目で相手の状態と周囲の雰囲気を把握できていなかったんだ。加点なしの寧ろマイナスだからな」
と、結局名指しでお叱りを受けてしまった。
でも、その後。
先生が煙草の一服で訓練場を離れている間、僕が名指しでのお叱りに
「バーダントベアも満身創痍だったことに気付けなかったのは減点だが、それ程までにバーダントベアを疲弊させられていたって、タンバ教官も認めたって事じゃないか?」
と、ザックがそっと励ましてくれたことで、意外とやる気のスイッチを押して貰え。
ザックのお陰か、休憩後はとても身の入った訓練ができた。
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