第27歩 記憶の夢の中で

 それからも、クーさんから教わった情報を元に森林地帯の対策を練ったり、イズレンデさんの薬屋で購入した魔法薬を分配したり。


 探索の日取りも明後日から一週間ということで決まり、思いのほか早めに四島探索の打合せが終わったので、あとは引き続き食事を楽しんだり雑談に耽ったり。


 三人でねこのしっぽ亭を満喫した。


「そういえば、バーダントベアの攻撃をくらっちゃった時、記憶の夢っていうの?いろいろな思い出が浮かんでは消える夢。それ、初めて見たかも」

「まじか!?あの時、記憶の夢を見るほどヤバかったのか!?」

「…回復、間に合って良かったぁ」 


 ふとした発言を結構深刻に受け取られてしまい、僕は、


「ごめんなさい。もう無茶しません」


 と、ただ只管ひたすらに謝るしかなかった。


「で、記憶の夢を見るってとんな感じなんだ?俺もまだ経験ないから知っておきたい」

「見ないに越したことはないと思うけど…わたしもちょっと気になるかも」


 言い訳と謝罪に言い訳と謝罪を重ねに重ね、どうにかこうにか和やかな雰囲気に場を戻した僕に、ザックとニコルが興味津々に訊いてきた。


「うーん。えーと」


 僕は記憶の夢で見た内容を思い出す。が、流石さすがに完全には覚えていなくて。

 断片的にその内容を二人に伝えた。


「確か、ザックとニコルと教育セクトで出会った時の映像は見たかな」

「おっ、記憶の夢って大切な思い出を見るってよく言うよな。ソラにとって俺らはそんなに大切か。そうかそうか」


 僕の言葉に大げさに頷いて見せるザック。だったけど。


「そこは映像だけで、一瞬だったと思う。記憶の夢で見たのはバーナ村の思い出が中心だったかな」


 という僕の言葉に、


「おいおい。俺らより村かよ」


 と言って、また大げさにガクッとして見せた。


「ガレリアよりもバーナ村の方が生活してきた期間も断然長いのだから、そっちが中心で当たり前でしょ」


 ニコルの正論に、三度目の大げさなリアクションを見せるザック。


 僕は「ザックごめんね」と、笑いながら謝った。


 そして、謝りながらバーナ村の映像を思い起こしていると、ふとあることに気が付いた。


「でも、不思議なのは…村の人たちよりフェレと一緒にいた時の映像を一番鮮明に覚えてるんだよね」

「フェレって?」


 僕の独り言のような言葉を聞いて、ニコルが首を傾げる。 


「ああ、こっちだと馴染みがないよね。フェレはフェレット型のなんだけど、バーナ村にはいっぱい生息していて。僕の家も数匹飼ってて最早もはや家族みたいな感じだったから、かな。……でも、両親や友人を差し置いてフェレが記憶の夢の中心なのってどうなのかなって」


 そう言って僕は、苦笑いと共に頬を掻いた。


「確かに、魔物に負けたと思うと、それはそれで悔しいな」

「ザックは今から記憶の夢に出して貰えるようにソラともっと親密になっておくことね」

「もう記憶の夢を見るようなことにはなりたくないんだけどね」


 そう言い合って僕たちは笑い合った。


「それで、フェレとの思い出の夢はどんなだったの?」

「うーん。すごく仲良くしてて。本当に魔物なのかなってくらい。まぁ実際に仲は良かったんだけど……。でも…なんか。そのことを思い出した今だと。バーダントベアとかバーダントパードとも仲良くなれる気がしてきちゃって」

「ははは。本当、新界しんかいの魔物とも人界じんかいの魔物くらい仲良くなれたらいいのにな。まぁ無理だってわかってはいるが…」


 人界の魔物は五百年前の魔物侵攻の際に新界から人界に出てきて、そのまま人界の魔力に晒されながら子孫を残してきた為に、既に人族ヒューマンへの殺意などは抜けてしまっていて弱体化もしている為、人界の既存の動物と大差なく扱われている。


 特にフェレは早くから人族ヒューマンに馴染んだ種族であり、バーナ村では村の平和の象徴として皆から愛されている。


 現在、フェレ以外にも人界の魔物と呼ばれる種族は多くいるが、ガレリアは勿論、他の国家でも無意味な迫害を禁じているところは多いと聞くほど、この五百年で既に人界に馴染んでいる。

 まぁ、人界の魔物でも人族に害を成す魔物もいるのは別の話で……。


そんなフェレのことを記憶の夢で見るのは謎だけど、ここまで鮮明に頭に残ると、久しぶりに会いたい気持ちが出てきた。

 四島探索を終えたら一度バーナ村に帰ろうかな。


 そんな事をボーと考えていると、ニコルが何かしら深刻な表情をしていることに気が付いた。


「ニコルどうしたの?」


 僕が声を掛けると、引き続き林檎酒シードルあおっていたザックもニコルの雰囲気の違いに気が付いたようで、ジョッキを持ったままこちらを向いた。


「別に。次回はソラに記憶の夢を見せないようにフォローと回復を頑張らないとって考えていただけ」


 ニコルがそう言うので、僕は再び謝るも、何故か本当に考えていたこととは違う気がして。


 最近同じようなことがあったなと思いながらも、打合せを終えてから再び林檎酒シードルを飲み始めた頭では思い出せず。

一先ず、この話は終わってしまった。


そして、ねこのしっぽ亭のご飯とお酒でお腹も気持ちも一杯になった僕たちは、そのまま現地で解散し、翌日は四島探索の準備と英気を養う為に、各自休養に充てたのだった。

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