第28歩 いざ 四島探索へ

 そして、ねこのしっぽ亭で打合せを行ってから、翌々日の早朝。

 場所は神殿ゲート前。


 僕たちは四島探索に向かうべく、第一新界ゲートの前で入場の受付をおこなっていた。

 受付を担当するのは、そう、この人。

 ラズ=ウィザードリィさん。


「ああニコル、私の可愛いニコル。人界じんかいに帰ってきてまだ二日と八刻半。もう新界しんかいおもむいてしまうのね」


 僕とザックのことは全く見ず、僕たちが人界に帰還していた時間を正確に言い当てるラズさん。

 最早もはや驚く素振りを見せることもなく、ニコルとラズさんのやり取りを静かに見守る僕とザック。


「それで、今回はどこまで行く予定?」

「四島の森林地帯まで行ってきます」


 第一新界のゲート前に、ニコルのラズさんの声だけが響く。


「四島の森林地帯って言ったら…一週間は戻らないのね。寂しいわ」

「探索の予定期間、よくお分かりで」


 無言を耐え切れなくなったザックがいつものようにボソッとツッコむも、ラズさんが当然のようにそれを無視したので、僕は笑いのツボにはまってしまって。

 僕は笑いをこらえるのに、必死になって右腕をつねっていた。


「新界なんて野蛮なところに行かずにずっと私の隣に座っていてくれてもいいのに」


 そして、無茶なことを言い出すラズさん。だったが。


「私と同じ給金を出すように上は説得するから」


 無茶だと思っていた話が急に現実味を帯びだして。


「あら、本当ですか?なら、今回の新界探索は不参加になる、かな?」

「ニコル!?」


 ニコルの冗談にならない冗談に踊らされる僕とザックだった。


 そんなこんなで、受付終了。


「じゃあ、ニコル。良い新界探索を」

「ありがとう。行ってきます」


 僕たち三人は第一新界のゲートをくぐり、砦を抜けて。

 いざ、四島へ!


 といっても、一島から三島までの道のりも大変な訳で。


「ザックッ!ダメだ、そこはッ!」

「えっ?」


  パキッ


「そこは…魔石のあるところ、だよ」


 こんな感じで、せっかく三人で倒した大型魔物の魔石をザックが割ってしまったり。


「どうしよう」

「ニコル、どうしたの?」


「持ってきた食材じゃ足りなくなるかも」

「えっ!?」


「今晩は大百足のソテーに、大百足スープ。大百足の眼球ゼリー煮とかになるけど、良い?」

「良い訳ないだろ!」

「せめて大百足じゃなくて、他の食材を調達しようよ…」


 と、ニコルに遊ばれたり。


 そして、一番の危機は、大百足の群生地に誤って入り込んでしまったこと。


「やばいやばいやばい。多すぎだろ」

「お父さん、お母さん。先立つ僕を…」

「ザック静かに。ソラは縁起悪いこと呟かないでっ!」


「ニコルが一番うるせぇよ。元と言えば昨日ニコルが大百足を食おうとか言うから…」

「そうだっ!断魔水だんますいを使おう!」

「ソラ、まだここ三島!ここで隠し玉投入とか、イズレンデさんに顔を合わせられなくなるから」


「その前に人界に帰れるのかな、僕たち…」

「最後にララノアさんを一目見たかった……」


「もう嫌ぁ~~~!!」


……と、まぁ。

そんなこんなでも、どうにか僕たちは四島へのゲートへと辿り着き。


ゲートをくぐると、そこには大雨の降る森林地帯が待ち構えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る