第26歩 四島探索の打合せ

「そういやぁ、そろそろ四島探索について話し合わねぇとだな」


 林檎酒シードルを何杯も空にしても全く酔い気のないザックが、乾杯から半刻はんときは経った頃に思い出したかのように当初の目的を口にした。


「そうね。つい料理に夢中になっちゃた」

「うーん。明日じゃダメかな」


 最初はザックのペースに合わせて林檎酒シードルを飲んでいたけど、そこまでお酒に強くない僕は訓練の疲れもあって途中からちょっとヘロヘロになってしまって。


「ダメです」

「ははっ。これくらいの量でソラは情けねぇなぁ」

「うぅ。僕もまだ飲める」

「ソラはもうおしまい。ザックも面白がって煽らない」


 そういってまだ子供な兄弟をなだめる母親のようなニコルに、僕は林檎酒シードルを取り上げられて酔い覚ましに回復魔法を掛けられたのだった。



「で、まずは次回の探索についてだが、どうしたい?」

「それは予定通りでいいんじゃない?」


 ニコルが僕から取り上げた林檎酒シードルのジョッキを店員さんに渡しながらそう言う。


「四島の森林地帯に入ってもやっていけるかを確認するってこと?」

「そう」


 僕は昨日ヴェグルさんに説明した内容を思い出して繰り返し、ニコルがそれを肯定する。

 そこで僕は、イズレンデさんの薬屋での買い出しを終えていることを思い出した。


「うん。僕もそれで良いと思う。できる限りの準備はしてきたつもりだし。四島で使う魔法薬まほうやくなんかも買ってきたから後で配るね」

「おっ、助かる」


「ソラ、イズレンデさんのところに寄って来たんだ。四島から帰ったら私も顔を出したいかも」

「いいんじゃない?ララ姉もニコルに会いたがってたし」


「ララノアさんとの会話の中で、俺の話は出なかったか?」

「うーん。ザックは、名前を憶えられてるかも…微妙?」


「まじか…」

「ふふっ」

「ニコル笑うな」


 僕の発言を皮切りに、四島探索をどうするかという内容から脱線していると…。


「お兄さんたち、エアル四島の森林地帯に行クーか?」


 と、先程ニコルからジョッキを受け取った女性店員さんが話し掛けてきた。


 両腕が純白の羽で覆われている鳥人ちょうじん系デミの店員さんは、僕たちにそう話し掛けると、


「よっクーしょっ」


 と言って、僕たちが座っていた四人席の一席に腰掛けた。


「クーも四島の森林地帯にはよく行ったから、色々教えてあげられるクーよ」

「ありがとうございます。助かります。でも…サボってたらまずいんじゃ」


 ニコルがそう言って丁度キッチンに入っていったケットシーの店主さんをチラッと見た。


「大丈夫、大丈夫。気付かれない、気付かれない。この席は店長から見え辛いクーね」


 店員のお姉さんはそう言って笑うと、自分のことはクーと呼んでと付け加えた。


「クーさんは現役のシードルなんですか?」

「クーはランクⅡセカンドの元シードルね。といっても最早もはやあれはランクⅢサードだったクーね」


 クーさんは懐かしむようなおちゃらけたような声で、僕の質問に答えてくれた。


 ギリギリのランクⅡセカンドということは、たぶん第二だいに新界しんかいの最後の島くらいでシードル新界開拓者を引退することになったのだろう。

 でも、それでも僕らにとっては大先輩には変わりない。


「そういえば、出現する魔物は教わって地図も買ったけど…森林地帯の特徴とかってもしかして誰も知らない?」

「確かに!」

「それは盲点だった!」


 何を質問しようかと考える様子を見せていたニコルがふと口にした疑問に、僕とザックは驚いたように反応してしまって。


「クククー」


 と、クーさんに笑われてしまった。


「森林地帯の特徴なら詳細に伝えられるクーね。クーに任せて」


 クーさんは一頻ひとしきり笑った後でそう言うと、森林地帯の特徴を説明してくれた。


 クーさんの説明を簡単に纏めると。

 

 視界が狭いので草木の音と魔力を頼りにした索敵になること。

 また、保護色に身を包んだ魔物は本当に視認し辛いとのことで、索敵担当の僕の負担は大きいことが予想されること。


 そして最後に、雨天時は探索を避けること。

 魔物の音も魔力も雨で掻き消されてしまうので索敵の難易度、しいては攻略の難易度がぐっと上がるからだ。


 幾つか洞窟のような場所があるので、雨天時はそこで雨が上がるのを待つようにと、洞窟の場所を教えて貰った。


「そういえば、エアル四島ならそろそろお兄さんたちもランクⅡセカンドだけど、入るセクトの目星はついてるクーか?」


 クーさんは説明を終えると同時に、ふと気になったように僕たちに質問した。

 

「まだなんです。でも、それも丁度ここで話題に挙げようと思ってて」

「そうなの?」


 僕の回答は予想外のものだったようで、ニコルが首を傾げる。


「昨日ヴェグルさんと話した時に、そろそろだなって」

「なるほど」


 僕の言葉にザックもニコルもセクト加入の話が出たことに思い当たったようで、仲良く揃って頷いた。


「そうクーねぇ。セクトに加入してからも三人一緒のパーティで臨みたい感じクーか?それともバラバラでも大丈夫クーか?」「三人一緒がいいです。」


 僕は即答した。

 そして即答してから、ザックとニコルの意見を全く聞いていないことに気付き。


 少し固まった後に…二人を見渡す。

 すると二人も頷いてくれたので、ほっと大きく息を吐いた。


「そっか。それなら小規模なセクトを選ぶと良いクーよ。何故なら、クエッッ!?」


 店主さんに見つかり、襟元を掴まれてズルズルと戻されていくクーさん。


「違うクー。常連づくりの一環で。サボってた訳じゃないクー」


 そんな言い訳にも一切いっさい耳を貸されず、そのままクーさんは「また相談に来るクー!!」という言葉を最後にキッチンへと消えていった。


 僕たち三人は呆気にとられながらも、クーさんの執念染みた言葉に苦笑し。


 セクトのことについては、またここに来てクーさんから訊くことで意見が一致した。

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