第5歩 クーさん再び

「やっぱり大手のセクトへの加入は難しいかぁ」


 新界の砦を後にして人界のミーティングルームに着くや否や、ザックがそう言って大きな溜め息をついた。


「それは最初からわかっていたでしょう。ライの秘密を知っている人は少ないに越したことはないんだから」

「僕とライがごめんね」


「ソラは謝らない。とにかく、この偏屈は置いておいて、建設的な話を進めましょう」

「いやいや、混ぜてもらいますとも」


 そんな切り口で始まった第二回『今後どうしようの会』。


 一先ず、ポラリスの副団長から聞いた話をもう一度洗い出してみる。


「ライ以外の新界の魔物って本当にいないんだね」

「そうね。サリーさんとヴェグルさんが何か隠してなければね」

「そこは信頼していいだろ。たぶん。というか信頼しないと話が進まん」


 ザックの言葉に珍しくニコルが「確かに」と言ってふふっと笑う。


「それと、やっぱりライがチビ助になる理由もわからんときた」

「結局、ライについては全く何もかもがわからないままね。ね?」


 傍目からはわからないような義足が新調されたニコルの膝の上で良い子にして座っていたライが、ニコルの問い掛けにワオンと良い返事をする。


 そんなライから、これは絶対に何もわからずに返事をしただけだな、というのがソラには何となく伝わってくる。


「これ以上はライが新界の魔物だと知っている人を極力増やさないっていうのは大前提だよね」

「そうね。その為にも小規模のセクトに入るのは決定事項ね」

「だよな。まぁ俺は元から異論はないんだが」


 そう言うザックにニコルは再三のジト目を向けるも、ふぅと一息ついて言葉を続ける。


「一先ず加入するセクト探しと新メンバーの募集をどうするかだけど。誰か何か案はある?」


 すると、皆が皆うーんと悩み始め、急に静かになったミーティングルームに誰からかわからない大きな笑いが漏れた。


 その後も色々と話し合ったが、これといったアイデアはなく。

 ミーティングルームの予約時間も終了が近付いてきて。


「まぁすぐには良いアイデアは出ないわな」

「そうね。とりあえずは各自で考えてまた持ちよるってことにして。まずは、」

「新メンバーの歓迎会だね」

「ワオーン」


 やっぱり何もわかってないと思いながらも、可愛くしっぽを振って吠えているライを見て、ソラは苦笑いするのだった。




 神殿を出てからライ同伴で入れる飲食店を探していたところ、呼子の女性から問題なしとの返事を貰ったので、ソラたちは再びねこのしっぽ亭で食事をすることにした。


 ライに魚は食べれるかを訊いたところ、ワンッ!と気持ちの良い返事が返ってきたので、たぶん大丈夫だろうとなったこともお店を決める後押しとなった。


 そして、前回と同じ席で種々様々な魚介料理と林檎酒シードルに舌鼓を打っていると、こちらも前回と同じように店員のはずのクーが遠慮なしにソラたちの席へと同席してきた。


 しかも今回は、四人席の一つをライが利用していたので、自分の椅子を他から持ってきてまで。

 クーはよほど、ソラたちを気に入ったと見える。


 前回そんなに気に入られることしたかなと、ソラたち三人は三人とも苦笑いを浮かべた。


 そんなこんなで、クーを交えて会話している中で、


「エアル四島のたんさクーは上手くいったクーか?」


 と、クーが訊いてきた。


 ソラとザックはその言葉にギクッとなって固まった。

 四島探索の話をするとなるとレッドグリズリーやライの話は避けて通れない可能性が高い。


 それもあり一瞬の無言が漂いそうになった。

 しかし、そこは流石のニコル。


「ええ。でも、わたしは足を失ってしまいました」


 と自身の義足をクーに見せ、クーの意識を完全にそっちに持っていってしまった。

 足を失ったのも大雨による崩落に巻き込まれたせいにして。


 自身の傷を撒き餌にしてライの話題を遠ざけるニコルの格好良さに、男二人は情けないやら申し訳ないやら。


 ニコルとクーが話し込んでいる中、二人は口も出せずに林檎酒シードルをちびちびと飲むしかなかった。



 その後も、ライは遠方の人界の魔物でソラが幼少期からテイムしていたという話やまだ加入するセクトの目星はついていないといった話をクーの質問に対してスラスラと回答していくニコルに、男二人が完全に舌を巻いていると。


「それならクーの知り合いを紹介するクーね」


と、メンバー不足で困っているというニコルの話にクーが言った。


「紹介して貰える方がいるんですか?」

「その子はケットシー《猫人》で、後衛も遊撃もこなせるクーから、お兄さんたちのパーティにぴったりと思うクーよ」


 クーはそう言うと、そのケットシーはまだセクトには所属できていないランクⅠファーストだが、五島の最終ゲート付近までは進んだ腕の持ち主だと教えてくれた。


 そしてその後、そのケットシーについての追加情報を教えてくれようとしたのだが。

 やっぱり店主に見つかり、襟元を掴まれてズルズルと戻されていくクー。


「明後日、予定を空けておくように言っておクーから、正午に神殿に行くクー」


 そんな言葉を最後に最後にキッチンへと消えていった。


「……明後日の予定、決まっちゃったね」


 嵐のようなクーの入退場に、三人はまたしても呆気にとられながら苦笑するしかなかった。

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