第7歩 換金所のダンさん

 そして、次に僕たちは換金所へ。


 新界しんかいから背嚢はいのうに詰めて持ち帰った魔物の魔石や素材などは、いつも神殿の換金所でお金と換えて貰っている。


 何故かと言うと、神殿以外の民間の換金所を駆け出しのシードルが利用すると、不当な価格で買い叩かれてしまったり、換金所を出たところで喝上げにあうなんてことがざらにあるからだ。


 その点、ガレリアが公的に運営している神殿の換金所は、換金レートは低いながらも持ち込んだシードルの足元を見て買値を変えるようなことはなく、鑑定士の目利きも確かだ。


 それに加え、銀行の役割も担っているので換金後に大金を持ち歩く必要がなく、もし喝上げにあったとしても失うのは手持ちの少額で済む。


「六番の人たち〜どうぞ〜」


 換金所では数組の待ちができていたので、合い札を貰って暫くその場で待っていると、間延びした声で僕たちの合い札の番号が呼ばれた。


「うわぁ〜大量だぁ。それ全部ここで換金するの〜?」

「はい。必要な分は取り分けたので」


 順番を待っている間に背嚢に入っていた魔石や素材を売却用のケースに移しておいたので、さっきまでぱんぱんに膨らんでいた背嚢もすっかり軽くなった。


「ここだけの話、外の換金所の方がレート高いよ〜?」

「ダンさんに何を言われてもここでの換金はめませんから。諦めて仕事してください」

「だよね〜。はぁ〜」


 すらっとしていて高身長で顔立ちも整っているので女性から大人気、となりそうな素材を全く活かさない、ボサボサ頭に極端な猫背がトレードマークな鑑定士のダンさん。


 僕たちがシードルになってからここで何度も同じやり取りをしているのに、今でも頑なにあわよくばサボりたいという姿勢を崩そうとしない、ちょっと変わった人だ。


「じゃあ、鑑定するから〜。三人とも水晶に魔力通して〜」


 その後もサボることを目的としたダンさんの提案を受け流すというやり取りを数回繰り返し、ダンさんが諦めたところで換金の手続きがやっと始まった。


 最初の頃は、断られるのがわかっているのに何でこんなに諦めないのかな?と思いながらやり取りをしていたが、このやり取り自体が回転率良く仕事をこなさない為の時間稼ぎだとわかってからは、むしろこのやり取りを楽しむ様になった。


 まぁ勿論、急ぎの時には急いで貰える様に誠心誠意お願いするけど。


 カウンターに置かれた水晶が、ダンさんに触れられて淡い光を帯び始める。

 僕たち三人も水晶の光の強弱が落ち着くのを待ってから順々に水晶に触れた。


 人族ヒューマンの保有する魔力の波長が千差万別であり終生不変しゅうせいふへんであることがわかってから、シードルは魔力の波長で身分を証明できるようになった。


 例えば、この水晶型の魔道具。僕たちが魔力を流すと魔力の波長を基に身元を特定してくれる。


 これにより、お金を引き出す際などには正確な身元確認が行われるので、シードルは自分たちが預けたお金を他人に引き出されるなどといった心配をしなくてもいい。


 また、流した魔力の波長に則した紋様もんようを物に刻印することができる魔道具もあり、クエストの依頼者が自らの魔力の波長に則した紋様を刻印することで正式な依頼書であることを証明する、などといった用途で使用されている。


 魔力の波長による身分の証明に対し、『管理されている』と嫌悪感を示す人たちもいるけど、僕はこれといった負の感情もなく、ありがたく利用させて貰っている。


「この量だと少し時間が掛かるよ〜。神殿で他にすることあったら済ませて来ちゃって〜」


 ダンさんはそう言って、だらだらとしながらもカウンターに積まれたケースを換金所の奥に運び始めたので、僕たちは「よろしくお願いします」と言って換金所を出た。


 これで、探索から帰ってきたら神殿でやるべきことは、あと一つ。


 それは、今回の野営探索によってどのくらい魔力量が上昇したかの測定だ。

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