第8歩 魔法の使えない僕
「いらっしゃいませ。三名様ですね?本日はどのようなご用件ですか?」
「魔力測定をお願いします」
「かしこまりました。では、こちらで少々お待ちください」
ここでも待ちができているようで、待合室のソファに座って順番を待つ。
「なあ、前回の魔法測定からどのくらい経ったかって覚えてるか?」
待合室のスペースに対して待っている人がまばらだったので、― これなら思ってたより早く呼ばれるかな ― などと考えていると、横に座るザックが訊いてきた。
「魔力測定じゃなくて、魔法測定?」
「そう、魔法測定。魔力測定は定期的に受けるようにしてるが、魔法測定は当分受けてないだろ?」
「そういえばそうだね。え〜と、どのくらいかな……」
ザックの問いに、僕が答えを探していると、
「だいたい四ヶ月くらいかしら」
と、小さなコーヒーテーブルを挟んで正面に座るニコルが答えてくれた。
「もうそんなに経つんだ」
「そうね。前回の測定は教育課程が終了する少し前だったから」
ニコルの答えに記憶を辿ってみるも、そんな記憶があるような、ないような。
ぼんやりとした記憶しか辿れず、思わず「そうかぁ~そんなに経つんだね」なんて同じ台詞を繰返してしまった僕に、ニコルが不思議そうな顔をした。
「じゃあ、一応この三人で独り立ちしてから四ヶ月が経ったってことか」
二人の様子を気にする
不思議そうな顔をしていたニコルがザックのそんな様子を見てふふっと笑ったので、僕もつられて笑った。
「まだ全然独り立ちできていないけれどね」
「明日だって先生に訓練して貰うしね」
「だから、一応って言ったろ」
感慨に浸っていたところに水を差されて
「でも、何で急に魔法測定?」
「いや、そろそろ魔法測定を受けてもいいんじゃないかと、ふと思ってな」
僕の問いにザックが答える。そして、
「確かに、今はまだ魔力量も
と、前置きした上で、
「いざって時や魔力量が増えた時になって焦らないように、三人とも魔法をステップアップさせるには良いタイミングじゃないか?」
そう言うと、ザックは腕を組みなおした。
ザックの提案を聞いてニコルが視線だけを僕の方に向ける。
気付いた僕がニコルの方を向くも、ニコルは再びザックの方に視線を戻した。
「タイミングは良いと思う。わたしも回復魔法以外ももっと覚えないとって思っていたところ」
ニコルはそう言うと視線を落とし、「でも」と言って一息置いてから、また視線を上げた。
「次回の探索で三人の課題を見直してからの方が良いと思う。それに、新しく魔法を覚えても、慣れていない魔法を使えるってことがリスクに繋がるかもしれないし」
そんなニコルの考えに、ザックは「なるほど」と頷くと、
「ソラはどうだ?」
と、僕にも意見を求めた。
「……どうかな。僕はまだ魔法が使えないし、どんな属性の魔法が使えるようになりそうかって感覚も掴めていないから」
僕は頬を掻きながらそう言った後、
「だから、タイミングは二人に任せるよ」
と、続けた。
僕の意見に、ザックは「そうか」と答えてくれたけど、その後は誰も言葉を続けず。
数秒の沈黙。
―― 僕だけが魔法を使えないことで、二人に気を遣わせちゃったかな? ――
何か考えているような二人の様子を見てそう察した僕は、『僕のことは気にしないで』と言おうとした。
すると、
「前回の魔法測定では、担当官にどんなアドバイスを貰ったんだ?」
僕より先にザックが僕を見て、そんな質問を口にした。
「え、ええっと…」
ザックの急な問いに、薄い記憶を思い起こそうと
けど、思い出せたのはアドバイス未満の言葉だけで。
「周囲の魔力を感じる力が弱いから、まずは魔力を感じるところから始めるように。みたいなことは言われた……」
「でも、正直に言うと。どうやって周囲の魔力を感じたら良いのか。どうやったら魔力を感じられるようになるのか…今もわかってない」
三人の中で自分だけが魔法を使えない。
その現実を実際に口にすると、申し訳なさやら情けなさやらが胸に込み上げてきて。
僕は下を向いた。
「その時と今を比べて、魔力に対する感覚に何か変わったところはない?」
「周囲の魔力は、まだないかも。……でも、体内の魔力は、あの頃より感覚を掴めてきてるとは思う。身体強化は、面白くて好きだし…」
下を向いてしまった僕に対して、ニコルは無言の時間を作らないように問い掛けてくれた。
その心遣いを感じながらも、僕はまだ顔を上げることはできなくて。
下を向いたまま、ぼそぼそと答えた。
僕はまだ魔法が使えない。
ただ、体内の魔力を変換して身体能力を向上させる【
身体が大きな方では全くない僕が
だけど、シードルになってすぐに、ラズさんがいかにもな見た目のシードル数人を単身でコテンパンにしているのを間近に見て、改めて身体強化って凄いって思った。
実際に、今の僕も身体強化を実戦で使えるくらいには習得したことで、どうにか魔物と戦うことができているし、魔法を使えない僕にとって、身体強化はシードルとして活動する上で欠くことのできないスキルとなっている。
「ソラは身体強化、得意だもんね」
「魔法は使えないくせに、そこは三人の中で一番使い
僕が顔を上げると二人の笑顔があって。
「ガレリア育ちの俺とニコルは機会に恵まれて早いうちから魔法が使えるってのはある。ソラも今は機会に恵まれてないだけで、いずれ魔法も使えるようになるさ」
「わたしもそう思う。こればかりは運もあるから。その機会を気長に待ちましょう」
そんな、僕を信じて励ましてくれる二人を見て。
僕は「ありがとう」と口にしていた。
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