第14歩 第二新界へ
「ッハッッ」
小太刀を首元へと振るうソラ。
長く鋭く尖った凶暴な大顎で小太刀を弾き返すラージアント。
そして、接近したソラに
ソラはそれをバックステップで回避するも、止むことのないラージアントの爪の応酬。
両手のダガーと小太刀で
じりじりと後方へと押し遣られ、いつの間にか背中に樹を背負わされた。
そこに迫り来る、命を刈り取るラージアントの大顎。
ソラは背後に背負った樹を蹴り、斜め前方へ飛び込んだ。
大顎は回避するも、前肢の爪によりソラの肩に創傷が刻まれる。
全身の至るところから血が
それほどの相手に息なんて付く暇はない。
ソラは地面に着地するや否やラージアントへと地面を蹴った。
強固な
「ッハアッッ」
六つ肢で地面に立つラージアントの胸部と腹部の間の関節を、体躯を捻り全力で斬り上げた。
『ギリギャギャァ』
分断される胸部と腹部。
しかし、これで終わりではない。
魔物の凄まじい生命力を侮ってはいけない。
ソラは身体を分断され動きの鈍ったラージアントの首を落としに掛かった。
しかし、その寸前。
『ギリギャギャギャギャギャギャギャギャァァァア』
高速で大顎を咬み合わせてのラージアントの
「くそッ」
ソラは似つかわしくない悪態を付くと、そのままラージアントの首を斬り落とした。
「仲間を呼ばれたッ!」
「ちッ!了解ッ!!」
ソラの声に、丁度ラージアントの頭を剣で叩き割ったザックが答える。
五島の奥地の魔物はライガーだけではない。
人族と同等サイズの体躯を持った
樹を咬み切る程に発達した大顎に挟まれると、簡単に四肢を持っていかれてしまう。
強固な外殻はソラの攻撃を全く通さなかった。
そして、何よりもラージアントは死ぬ間際に仲間を呼ぶ。
それにより足止めをされるソラたち。
ザックもユニスもライも、其々が個別にラージアントとの戦闘を
仲間同士で連携をして倒す暇もなく、連戦が続くことに削られる体力、精神。
しかし、ソラたちはここを抜けて第二新界へと進まなければならない。
「次は俺らより数が多いってか、ふざけんなッ!」
前方から見える多数の
「後退ッ!」
ソラの声に三人と一匹が全力で逃走を
そうして、もう何度目の後退か。それでも、何度繰り返そうとも。
生き延びる為には後退と前進を繰り返してでも、前に進むしか道はない。
だが、ソラたちは追い込まれていた。
ぎりぎりの攻防で命からがらラージアントの群れを撃退しても、仲間を呼ばれて次のラージアントの群れが出現する。
それも、数は徐々に増え、今では三人と一匹では迎撃が限界なところまできている。
それにより、前へは遅々として進まず、
背後には高い崖が
完全に囲い込まれてしまい、もう後退も前進もできそうもない。
「本当に地獄だな。なぁ?」
ソラはザックのその言葉に答えることはできなかった。
四島に戻っていれば助かったかもしれない。
ラージアントに囲まれるより花化けに囲まれていた方が、勝機があったかもしれない。
何がライガーとは戦闘にならないから大丈夫だ。
それ以前の問題じゃないか。
自分の判断が仲間を巻き込んでしまった。
五島の奥地を抜けるには
ここ最近で
生まれて十五年そこらの歳月しか経っていない少年の心を壊すには、十分な状況が整ってしまった。
ポキリ、ポキリと聞こえてくる心の折れる音。
心臓の鼓動が早まる。視界が暗転しそうになる。誰が何を言っているのかわからなくなる。
もう、どうしたらいいのかがわからなくなって……。
しかし、
「グラァァ」
と。
ライがソラを真剣な眼差しで見て吠える。
紋章から伝わってくるライの気持ち。
すると、心を覆っていた
「グラァァ」
と、嬉しそうに吠えるライ。
「おっ、やる気だな、ライ。気が合うな」
と、ラージアントの群れから目を離さないまま
「私も、まだいける」
と、レイピアを軽く振るうユニス。
心臓の鼓動は高鳴るも、視界は明確になり、まだ
「僕も、まだやれるよ」
ソラはそう言って、いつの間にか下げてしまっていたダガーを強く握り直す。
まだ諦めちゃいけない。誰も死んでなんかいない。誰も死なせはしない。
ソラの中で再び湧き上がってくる熱い鼓動。
そして、その鼓動に呼応するように、ラージアントのそのまた向こう側から
『グラララァァァァア』
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