第13歩 孤立

「くそッ誘導されたッ!」


 自分たちが先手を取っていたと思っていた。いや思わされていた。

 鬼もどきを避けてゴブリンを一掃していくソラたちの行動の更に先を、鬼もどきに読まれていた。


 あそにモンスターゲートがあったのは偶然か。

 あそこで鬼もどきとの戦闘になったのは偶然か。


 もしかしたら、あの鬼もどきが自身の最終手段としてずっと隠し通してきたのかもしれない。

 ゴブリンを一掃していたソラたちは、逆に鬼もどきにモンスターゲートのある場所まで誘き出されていたのは間違いない。


 もし自身が倒されても、次の魔物が人族をほふってくれればそれでいい。

 これが自身の生死を埒外らちがいに置く魔物の、人族への殺戮さつりく本能の恐ろしさ。


 ゴブリン以外の魔物と群れないからこそ、除外していた連戦の可能性。

 その可能性をこんな形でいとも簡単に作り出す新界に、ザックが只々悪態を付いた。


 獣と同等の知能しか有さない魔物ではなく、知能の高い魔物を相手にする難しさ。

 もっとそれに主眼をおいて戦闘に臨むべきだった。


 しかし、それを今更どうこう言っても、もう過ぎてしまったこと。

 まずは、今からどうするかを考える必要がある。


 ゴブリンを一掃する間、相当の距離を移動している。

 それに加え、モンスターゲートからの形振なりふり構わない逃走で、五島の奥地に入り込んでしまっている。


 モンスターゲートが生み出した魔物の群れからはどうにか逃げおおせはしたが、当初予定していた第二新界へのルートから逸脱いつだつした今、ここから第二新界に向かうにはライガーの群れとの遭遇そうぐう必至ひっし


 そして、ソラたちと四島へのゲートをへだてる魔物の壁。

 モンスターゲートから今も出現しているだろう魔物の壁を抜けて四島に戻るのは不可能。


 今のソラたちにはライガーと戦う力も五島の魔物の大群を抜ける力もない。


 鬼もどきとの戦闘、魔物の大群からの逃走による満身創痍まんしんそうい

 ザックは盾を失い、手持ちの回復薬も各々おのおのの魔力も底を突きかけている。


 八方塞はっぽうふさがり。

 その言葉が、ソラたちの脳裏を埋め尽くしていく。


 そんな中、ソラが口を開いた。


「第二新界に、向かおう」

「お前言ってる意味が、わかってるのかっ?!」


 皆が肩で息をしながらも、どうすれば良いかがわからず固まってしまっている中でのソラの言葉。

 その言葉に息絶え絶えのザックが問う。


「うん……死ぬかもね」

「じゃあ何でっ?!」

「ライが、そう言ってる」

「ライが……」


 ソラの言葉に、ザックが今も周囲の魔物の気配を察知しようとあたりを見回しているライを見た。


「たまにライの気持ちが、紋章を通して伝わって来るんだ。ライガーとは戦闘にならないって、ライからそう感じるんだ。ね?」

「グラァァ」


 ソラの言葉に、ライが周囲への気の配りはめず答える。

 自身では触れられないライの機微きびに、ザックは「ライはそう言っているのか」と自問自答ともとれる言葉を口ずさんだ。


「ユニスは、どうかな?」

「私は、それでいい」


 ユニスはライをでながら続ける。


「ライガーのことは、ライが一番わかっていると思う、から」

「それは、そうだが……」


 そして、ユニスの回答に、自身の回答が定まらずか言いよどむザックだったが。

 その数秒後、パンと自身の頬を叩き、言葉を続けた。


「まぁ進むも地獄、戻るも地獄には変わりない。こうなりゃ俺も腹くくってライを信じてみるさ」

「ありがとう」


 ソラはそう言って立ち上がると、自身もパンと頬を叩いた。


「行こう」

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