第12歩 vs 鬼もどきⅢ
「火球」
「火球ッ!」
「火球ッ!!」
今まで畏怖の対象でしかなかった鬼もどき。
ゴブリンの渦に飲まれ、そのまま成す術もなく鬼もどきに
そんな恐怖に打ち勝つ事ができず、逃げかえってしまった、生き延びてしまった自分。
瞬間に頭をよぎる
自分を守るように鬼もどきと刃を牙を交えてくれる新しい仲間。
かつて自分たちを苦しめたゴブリンももういない。
―― 鬼もどきを、倒す ――
そう心に決めた。そして、自身も守られているだけではダメだと。
後衛だけでなく遊撃としても鬼もどきと相対する勇気を。
それを、ザックに貰った。鬼もどきに真っ向からぶつかっていったその姿に。
ユニスはレイピアをぎゅっと握り、鬼もどきの元へと駆け出した。
両手で振り回される巨斧と大剣を
でも。
大剣はザックが防いでくれる。
鬼もどきの意識をソラが
もしもの時でもライが雷撃で救ってくれる。
そんな信頼がユニスを前へと進ませた。
眼前に振るわれる巨斧をぎりぎりで避け、防具の隙間をレイピアで切り裂く。
噴き出す紫紺の煙。
だが、全くの動揺もなく再度振るわれる巨斧。
「おらぁぁあぁぁ!」
その巨斧を持った腕をザックが斬り上げた。
逸らされる巨斧の軌道。
ユニスは頭上を通り過ぎていく巨斧の面を蹴り上げた。
サマーソルト。
その蹴りに大きく崩れる鬼もどきの体勢。
「雷撃ッ!」
「グラァァア」
高く上げられた鬼もどきの巨斧を持つ腕に、ザックが刻んだ切創に、雷撃が撃ち込まれる。
そして、力強く握られたまま上空へと飛んでいく巨斧。
まずは一本。相手の武器を奪った。
しかし、まだ一本。ザックが苦しめられた大剣が残っている。
それでも、先程の攻防とは違う。
ユニスとザックにソラとライが加わった。
ユニスは着地すると後方へ下がった。
怖いから下がるのではない。
勇気が出ないから下がるのではない。
勇気を貰ったからこそ下がるのだ。
自分が下がっても新しい仲間は大丈夫だから。
「炎よ、大気と混ざりて、ここに
レイピアを
そしてユニスは、鬼もどき目掛けてレイピアを大きく振るった。
「
炎球が地を駆け草を燃やし鬼もどきへと迫る。
鬼もどきはその炎球を大剣で叩き消そうとする。
「させるかぁぁあぁぁ!!」
再びザックが大剣を持った腕を斬り上げる。
「雷撃ッ!」
「グラァァア」
ソラの声と共に一点集中の雷撃が鬼もどきの顔面に着弾する。
視界を失い武器も逸らされた鬼もどきの元に届く炎球。
『ガアァァアァァァアア』
爆炎が鬼もどきの全身を燃やす。
一度は言葉を失ってまで届かせたかった一撃をユニスは鬼もどきへと見舞った。
だが、油断は禁物。
これで終わりではない。
しかし、劫火に包まれた鬼もどきはユニス、ザック、ソラ、ライの誰に向かうでもなく林に向かって走り始めた。
―― 逃走!? ――
そんな訳がない。自身の生死など思考の片隅にも置かない魔物が、我が身可愛さに逃走するなどあり得ない。
「とどめを……」
そんなユニスの言葉を遮るように、林の奥へと道を斬り拓くべく大剣を振り回していた鬼もどきの動きが急に止まった。
そしてこちらを向くと、
『ガラアァァアァァ』
と。
再度の咆哮を残して、地面へと突っ伏した。
そして、それは小さな笑みを浮かべながら。
しかし、その笑みを見る者はいなかった。
それ以前に、鬼もどきが突っ伏す様子すら見る者はいなかっただろう。
「モンスター……ゲート」
三人と一匹は、鬼もどきに斬り払われた林の奥から現れたゲートに只々目を奪われていた。
【モンスターゲート】。
読んで字の如く、魔物の門。魔物が生まれ来る門。
それが突如としてユニスたちの眼前に現れた。
「大群が来るぞッ!走れッ!」
ザックの叫びが先か、花化けがゲートから現れるのが先か。
ゴブリンとは比べ物にならない強さを誇る、同数同士でやっと勝ちが見える五島の魔物の群れがソラたちを襲う。
どう戦えばこの戦局を乗り越えられるか。
そんなことを考える余地も与えてくれないのが新界。
そんな新界の猛威に、ソラたちに残された道は逃走以外なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます