第11歩 vs 鬼もどきⅡ

「おぉおらぁぁあッ!」


 ザックが放つは上段の飛び斬り。体重を乗せた一撃。

 しかし、眼前に現れたのは大剣の切っ先。


 悠然と、それでいてザックを上回る剣速での斬り払いに、いとも簡単に弾かれるザックの斬撃。

 剣を持つ手ごと身体を大きく振られ、剣の柄を手放しそうになるのをぐっと堪える。


 しかし、体勢は崩され、視線は地面へ。

 そんなザックを鬼もどきが見逃すはずもなく。

 ザックの頭部目掛けて大剣が振るわれた。


 そして大剣がザックの頭部にめり込む……その寸前。

 大剣の切っ先で爆炎が弾けた。


 それにより、軌道のずれた大剣の切っ先がザックの頭部を掠めていく。

 ザックは地面に着地すると後方へと全力で飛び下がった。


 ユニスの火球がなければ死んでいたかもしれない。

 その事実がザックの心臓を破裂させそうなほどに鼓動させる。


 それでもザックは鬼もどきと相対する。

 背後からサポートしてくれるユニスの存在を信じて。


 自身の持てる技の全てを、この時に注ぎ込む。

 ザックは盾を眼前にぐいっと押し出し、掛かって来いとばかりに鬼もどきを挑発した。


『ガアァァアァァァアア』

「うらあぁぁあ」


 鬼もどきの大剣とザックの盾がぶつかり合い鈍くも鋭い音が響く。

 一撃一撃がバーダントベアの体当たりに匹敵するかの重さにザックの表情が歪む。


 それでも、重心を下げた両の足が後方に押し込まれることはなく。

 その場で堪え切るザック。


 しかし、そんなザックを嘲笑うかのように、鬼もどきは大剣を振るい続けた。


 そして、


  バキッ


 と。


 それはザックの手元で音を立て始めた。


「ぐっ」


 ザックもその音に顔をしかめずにはいられなかった。


 防具破壊。度重なる大剣の衝撃に盾が耐えきれず。

 バキリ、バキリと音を立てて、ザックの盾は最期の時を迎えようとし始めた。


「くそ、がッ」


 ザックはそう罵ると、壊れ始めた盾を後方へと投げ捨てた。


「来いよッ!」


 右手に剣を、左手に盾を。そんな自身の磨き上げてきた戦闘スタイルを捨て。

 ザックは両手で剣を持ち、目の前の強敵に相対した。


 しかし、そんなその場しのぎの強行が今までで最強の相手に通じる訳がない。


 ザックが両手で上段斬りを放つも大剣で弾かれ。


「ッぐはッッ」


 隙のできた腹部に渾身の蹴りを見舞われた。


 自身で投げ捨てた盾より遠く。後方に蹴り飛ばされるザック。


 胸当てが魔物の素材を使ったブレストプレートでなければ内臓を破壊されていたであろうその蹴りに、一瞬意識を飛ばしそうになるも、ザックは耐え忍んだ。

 受け身も取れず背中から地面に叩きつけられるも、意識を飛ばさなかった。


 傷みは全身を回っている。でもそんな事はどうでもいい。

 奴を自身の元に留め続けるのが己の役目。


 しかし、顔を上げたザックの視界の中に鬼もどきの追撃はなかった。


 ―― 狙いは、やはりユニスかッ ――


 目の前にすぐに殺せそうなザックが転がっていたとしても。

 それに全く興味を示さずユニスへと迫る鬼もどき。


 始めに殺すはユニス鬼人から。

 そう誰かに定められているかのように鬼もどきはユニスの元へと向かっていた。


 しかし、タンバにソラよりザックよりニコルより上手うわてだと言わしめたユニスの脚は、一対一で鬼もどきに捕まるほど鈍間ではない。


 それでもユニスと鬼もどきの距離は縮まっていく。


 そう、方々ほうぼうからまとわりついてくるゴブリンを振り払いながらの逃走は困難を極める。

 これが鈍足でありながらシードル新界開拓者狩りを行える鬼もどきの強さ。


「くッ!?」


 遂に片足をゴブリンに掴まれるユニス。

 レイピアでゴブリンの腕を斬るも、一度動きを止めてしまったユニスに多数のゴブリンが組み付いてきた。


 鬼もどきとユニスの距離が一気に縮まる。


「火球ッ!」


 鬼もどきには効果の薄い魔法。それでも使い道はある。

 ユニスは発現させた火球を地面へと思いっきり放った。


 地面を抉り燃え盛る爆炎。鬼もどきとユニスの間に巻き上がる粉塵。


 しかし、そんな目晦めくらましごとき。


『ッガァッッ!!』


 只一発の咆哮ほうこうにより、鬼もどきからユニスを隠していた土のとばりが瞬く間に消え失せ。

 鬼もどきの手がユニスの首元に延びる。


雷撃らいげきッ!」


 その言葉が聞こえるや否やの眩い光を伴った雷撃に、鬼もどきはユニスに伸ばした手を引きそれを回避した。


「ッハッッ」


 そしてユニスに纏わりついたゴブリンをソラが切り裂いていく。


「待たせてごめん」


 ゴブリンのかせが外れたユニスがソラと後方へと下がる。


「これで付近のゴブリンは一掃したよ」


 鬼もどき討伐に向けてソラたちが選んだ策。

 それは、ゴブリンの一掃。


 鬼もどきと相対するまでに大方のゴブリンの討伐を終えておくことで、残った鈍足の鬼もどきを全員で叩く作戦。


 この作戦は鬼もどきに相対するまでにゴブリンをできる限り削り切ってこそ。


 鬼もどきの周辺に群れているゴブリンをソラとライが一掃するまで、おとりであるユニスとそれを守るザックが鬼もどきの攻撃に耐えきってこそ、達成が見えてくるもの。


 ゴブリンが消えて戦局の変わった戦場。


 鬼もどきは岩に刺さった巨斧を抜き、両手に大剣と巨斧を構えた。


「全員で叩くぞッ」


 ザックの声を皮切りに、対鬼もどきの第二ラウンドが幕を開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る